●『帰途』
人の少ない終電近くの電車。 そのボックス席に座り、平治と碎花は互いに持たれ合って眠っている。 駆け出しの恋人同士である2人は、朝に学園の玄関で待ち合わせをして、今日1日大きな遊園地で遊んだ。 ところが、帰りの電車に乗った途端、2人とも力尽き寝落ちてしまったのだ。 無理もないだろう。2人は夜のパレードまでに数々のアトラクションを制覇し、めいっぱいはしゃぎまわったのだから。 静かな電車の中、穏やかな寝息が重なる。 カタンと電車が揺れて、ふと平治が目を覚ました。 「ん……」 眠い目を軽く擦って、自分達が電車に乗っていることを思い出す。すぐ隣を見れば、碎花が平治の肩に寄りかかり、彼の腕に小さく掴まってすやすやと寝ていた。 明るくて、可愛くて、少し甘えたがりで寂しがり屋な面もある平治の大切な人。 今日は遊園地で一緒に遊んで、彼女の笑顔や様々な表情が沢山見られた。それがすごく嬉しくて、楽しかった。 碎花のそんな姿を、もっと隣で見たい。もっと彼女を知りたいし、自分のことも知ってほしい。 「これからも色んな楽しいこと、いっぱい一緒に共有していこうな」 呟いて碎花の髪を優しく撫でると、心が温かくなる。 降りる駅がまだ先であることを確認すると、平治は再び目を閉じ、眠り始めた。 平治が軽く身じろぎをしたからだろうか。彼が再び眠りに落ちて少しした頃、今度は碎花が目を開けた。 「ふに……」 その目を数度瞬いて隣を見やると、碎花に寄り添って平治が眠っている。 明るくて気さくで、賑やか好きな平治のあどけない寝顔。盛り上げ上手で、愉快な気持ちにさせてくれる彼と一緒にいると、いつでも笑顔になってしまう。 碎花にとって、平治と色んな話をして笑い合って過ごす時間は、いつだって素敵で特別なのだ。 「ありがとうなのです。今日も、とっても楽しかったです」 小声で言うと、平治がむにゃ、と口を動かした。 いつもは少しだけ格好をつけている彼だけれど、眠っている顔は何だか可愛い。 「ふふ」 優しくてちょっぴりくすぐったい気持ちになりながら、碎花は彼の腕にきゅっと掴まってまた目を閉じる。伝わる体温がとても心地良い。 電車は夜の街を走っていく。 お互いを想って眠る平治と碎花。きっと夢の中でも、2人は一緒だ。
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