●『first kiss』
新は、クリスマスの数日前から廻琉とのデートを計画していた。 付き合いはじめてそれなりになるし、そろそろキスくらいしても許されるのではないか。 大切な相手とのキスは、やはり特別な日がふさわしい。 そして迎えたクリスマス当日、新は『ファーストキス』へ向けて、廻琉をデートに誘ったのだった。 その日は、二人で屋外のデートに出かけた。 お昼頃から街中を見てまわり、ちょっとした買い物をした後、カフェでお茶して夕日を眺めた。 新はずっとキスするタイミングを考えていたが、なかなかその時がやってこない。 賑わう街中を歩いている内に、辺りが暗くなり始めた。 新が足を止めると、隣を歩いていた廻琉が新を見上げた。 「すっかり暗くなってきたな」 廻琉は新と目が合うと、頬を染めてうつむいた。 「そうです、ね」 そう答えながら廻琉は、今、胸の中が温かいのは新と幸せな時間を過ごすことが出来たおかげだと思っていた。 クリスマスのデートをずっと心待ちにしていた廻琉だったが、本当に良い時間を過ごすことができた。 「んじゃ、次はメグが見たいって言ってたツリー見に行こうぜっ」 新のその言葉に、廻琉は大きく頷いた。 イルミネーションが綺麗な大きなクリスマスツリー。
「わあ、きれい……です、ね。新君……」 廻琉は、初めて見る大きなクリスマスツリーに目を奪われていた。 イルミネーションが反射して、瞳まできらきらしている。 そんな廻琉を見て、新は胸が高鳴るのを止められなかった。 廻琉はツリーの美しさに夢中で、じっと見上げている。 (「キスするとしたら、ここだ」) わき上がる感情が、新にそう告げていた。 高鳴る心臓をおさえつつ、新は実行に移そうとした。 「……あー、メグ? えっと、あの……ちょい、俺の方見て……」 ツリーを見上げたままの廻琉の肩に手をかけ、新は廻琉と向かい合う。 だが新は、慣れない事をしようとしたため、廻琉と見つめ合ったまま、しばらく動けなくなってしまった。 そんな新を見上げ、廻琉は微笑みを浮かべると、背伸びして新に口付ける。 「っ!」 柔らかい感触だった。 新は驚き、赤面して固まってしまった。 「初めて、です、ね……」 そう言った廻琉の小さな声に、新の胸の中に甘い気分が広がった。 「きす、しちゃいました……です」 廻琉は照れながらも、微笑みを浮かべる。 ツリーのイルミネーションが、そんな幸せな二人をきらきらと照らしていた。
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