多鎖・薫 & 梶木・省吾

●『【穏やかな聖夜】二人だけの部屋で』

 茜色の陽が部屋に差し込む。
 テーブルの上に置かれたケーキ、その上に乗った苺が赤々と輝いていた。
 その苺の横へ、フォークをざっくりと差し込む。薫はふわふわした生クリームとスポンジを舌の上でとろけさせると、紅茶を口に含んで、正面に座る省吾をじっと見つめた。省吾が無造作に運ぶケーキは、すでに最後の一口であった。
「……省吾さん、お隣……座っても宜しいですか?」
 生クリームをつけた省吾が、ん、と薫の方を見る。薫は悩ましい表情で小首を傾げた。省吾は噛むのも忘れて最後の一口を飲み込み、ちょっと喉に詰まらせてから、努めて落ち着き払って言い返した。
「……ああ、いいぜ……。来い」
 カチャリとフォークを皿の上に置くと、ソファに腰を下ろした。
 省吾の声は、喉を詰まらせたからどうなのか、普段より若干甘く、優しい言い方になっていた。薫の胸で、一度大きく高鳴った鼓動を感じながら、そっと省吾の横へと移動する。
 すると、二人の体重でソファが沈んだ。僅かにバランスを崩す薫に、省吾はごく自然に手を回して抱き留めた。
 まだ何度と触れたことの無い省吾の体温が、それも不意打ちで、薫の肩に感じられる。薫は段々顔に熱を感じ、それから、わき上がってくる感情に頬がゆるゆると上がって行った。
「……省吾さん。俺、今とても幸せです。……2年前は、こうなれるなんて思えなかった……」
 薫は省吾の首元へ頭をあずける。そしてゆっくりとすり寄りながら、省吾の脚へと手を置いた。
「……だな。……俺も、今年お前と過ごせるとは、思ってなかった」
 薫の匂いを強く感じ、省吾も鼓動が早くなっていた。うまく口が動かない。
「……省吾さん」
 そんな省吾を、薫はそっと見上げた。
「ん?」
 ほど近いところで、二人の視線が絡み合う。
「メリークリスマス……です。……来年もずっと、こうしていたいです」
 薫は省吾に微笑みかけると、目を閉じて、もう一度寄り添っていく。



イラストレーター名:秋吉