●『Fly me in the night』
クリスマスパーティの舞踏会では至福の時を過ごした。 人の波を泳ぐように、すれ違い、けれど交わることはないままに……その興奮は冷めやらぬ中ではあったが、宴も終わった。 夜中には人の姿も消え、大きな明かりだけが町並みにわずかに残る。
空牙の黒い髪が風になびく。けれど闇に溶けることはない。 そんな彼を見つめる鈴花の髪は、対のような白。 隣に並ぶ鈴花の闇に浮かぶ白い髪に指をからめ、空牙は柔らかく撫でるようにすいた。意識せず、愛おしげに青い目を細める。 「行けるか?」 空牙の声に「ん」と鈴花は短く頷いた。 応じた鈴花を空牙はそっと抱き上げる。空牙にお姫様抱っこで抱かれて、鈴花もまた空へと繰り出した。 きんと冷えた空気にわずかな明かりでさえも遠くまでとどく。 寒空の中ではあったが、鈴花は愛する人に抱かれ、ドレス姿で空を飛んでいるのも気にならないほど熱く、身も心も高潮させていた。光が遠い中ではよく見えないが、その頬を赤く染めている。 鈴花自身も熱かったが、空牙と触れあう場所はなおのこと熱くなっているように思えた。 空牙が鈴花を手放すことはないと知っている。けれど、鈴花は空牙の首に手を回し、そっと抱きつくようにすると、顔を空牙に近づけた。 「このままどこへ行こうか。私は教会でも……なんてね。思うがままに振り回してみてよ、ご主人様?」 甘えるように擦り寄り、満面の笑みを浮かべる。 そんな鈴花の様子に空牙はやや恥ずかしそうに頬を染めつつ応じた。 「教会は……俺がもうちょっと、しっかりしたらだろうなぁ」 冗談ぽく言いつつ笑顔を返し、空を舞う。 そう? と鈴花はくすくす笑った。 耳元をくすぐる笑い声に空牙の腕の力を強める。 「ずっと、離さない」 ささやく空牙の言葉に鈴花は一度目を丸くした。 すぅっと青い目を細め、淡い花の色のような唇に弧を描く。 「その言葉、撤回させないよ?」 指先で空牙の頬を撫でながら、再び身を寄せる。
クリスマスパーティは終わっても、二人の空中疾走は終わらない。 二人で過ごす夜は、まだまだこれからだった。
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