お化けを、探しにいこうよっ

<お化けを、探しにいこうよっ>

マスター:ココロ


 くすくす……。
 踊り照らす橙色の炎を囲んで、皆で歌って騒いだキャンプファイアー。
 明るい灯火が時間の終わりと共に夜色と交替し始めると、陽気だった子ども達の声も一変し、不安な囁きが全員に感染し始める。
 だって……ねぇ?
 この後は、真っ暗な夜の校舎で肝試し。
 学校の七不思議って、ホントかなあ?
 理科室の笑う標本、トイレの壁の血文字、音楽室の嘆くピアノ……。
 平気だよ。どうせ先生達がお化け役やっちゃったりするんだよ。
 でも、ね。
 ……でも、もしもホントのお化けが出ちゃったら?

「夏の風物詩と云えば肝試し! 隣のあの子も後ろのその子も、怖い嫌よも好きの内。さあ行ってみようよっ! お化けの学校っ」
 ぐっ!
 長谷川・千春(中学生運命予報士)は親指を突き出し、集まっている能力者達に向き直った。
 元気パワーな運命予報士のテンションに、暑さ3割増しだ。
 夜になれば、この暑気も涼気に変わると信じたい。

「とある学校が夏休みのお泊まり研修中に、毎年恒例の肝試しをやるんだって!」
 しかし今年は運悪く、一週間前その学校には、残留思念の塊が1体の地味〜な地縛霊となり出現したばかり。
 肝試し中は子ども達の恐怖心も最高潮。
 地縛霊は最も怖がって悲鳴をあげる子ども達の傍に現れ、一般人には決して解けない無数の血糸で蜘蛛の如く絡め取る。
 襲われている子ども達のいる現場に駆けつけ、地縛霊を退治して欲しい。
 囚われた子ども達は、すぐには殺されずに拘束されたまま、新しい犠牲者が出る度にじわりと更なる恐怖心を煽られていく。
 そして地縛霊は、肝試しの時間が終了すると共に、恐怖を味わいつくしたその子ども達を殺そうと考えているのだ。
 見つけ出そう! 地縛霊を探せるかどうかが鍵となる!

「肝試し催し場所の本館校舎内全てが地縛霊のテリトリーだよ。でも、何処に出現しているか判らないの」
 校舎内で子ども達が一番怖がりそうな場所に潜み、そこでずーっと獲物を狙い続けていると思われる。
「参考迄に七不思議を教えるねっ。学校の先生達もソレになぞらえた仕掛けを中心にするみたい」
 窓際席に座る怪人、屋上へ続く階段躍り場の赤い鏡、黒板消しが飛び交う3階廊下、髪が伸び続ける校長室のカツラ……。
 1階の校長室、2階の特別教室、3階と4階の普通教室。
 校舎内は暗く、子ども達が何グループも入り乱れている為、紛れ込む事は簡単だ。
 ただし。
「もしも万一、他校生のキミ達が校内に侵入している事がバレたら、地縛霊に辿り付く前に騒ぎになるだろうから、上手くごまかしつつ探してねっ」
 忘れちゃいけない。
 そこは楽しいお化けの学校だって事を。
「方法はあるよね?」
 千春は親指を力強く突き立て、笑った。


<参加キャラクターリスト>

このシナリオに参加しているキャラクターは下記の8名です。

●参加キャラクター名
イヴ・トゥルス(小学生フリッカースペード・b01585)
ケゼンディア・ヴァンデルベルク(高校生魔弾術士・b03150)
スリジェ・ガラドリエル(高校生水練忍者・b00300)
月詠・アリス(中学生魔弾術士・b02898)
島宮・火蓮(高校生符術士・b01973)
灯神・漣弥(小学生符術士・b03209)
宝光寺・永久(小学生霊媒士・b00393)
柚花・廻(中学生魔弾術士・b05974)




<リプレイ>


●正義のお化け、参上だよっ!
「ワタシ綺麗?」
「きゃぁぁあああっ!! お化け──っ!!」

 耳まで裂けた真っ赤な唇の長身女が女子トイレの個室からひょっこり顔出せば誰でも驚く。
 悲鳴をあげて逃げ出した女の子2人組を見送りながら、ケゼンディア・ヴァンデルベルク(高校生魔弾術士・b03150)は、「やっべ。ワタシ─いや。俺、綺麗過ぎた?」とフリフリの女装姿でニヤリと笑った。
「その顔、本当に怖いんだよぅ」
 柚花・廻(中学生魔弾術士・b05974)は薪を背負った二宮金次郎の扮装で隣の個室から出て来つつ、顔を合わせまいと、ささっと本で顔を隠した。
 校内は肝試しの真っ最中。
 あちこちから子ども達の悲鳴が絶え間なく響き渡り、果たして4階校舎のどの場所が地縛霊の狙う『真の恐怖』となるのか、能力者達には全く見当がつかない。
 学校七不思議を全て調査する為、各担当をペアで決め、手分けして地縛霊を探索する事になった。
 全員、携帯電話を所持。
 異変があれば、即全員にメールを一斉送信する手筈も万全だ。
「よしっ! 血文字のトイレには居ないぜ。次っ次っ!」

 木を隠すなら森の中。お化けを隠すなら、お化けの中っ。
 能力者8人─。
 いや、『肝試しを楽しむ子ども達を守る正義のお化け』──只今、お化けの学校潜入中っ!

●ヅラと糸は違いますの?
「糸、蜘蛛なら校長室のヅラが怪しいと思ったのですけれど……」
 1階では、スリジェ・ガラドリエル(高校生水練忍者・b00300)と宝光寺・永久(小学生霊媒士・b00393)が、2人とも白の着物姿で悩んでいた。
 普段は児童の誰もが滅多に見る事の叶わない聖域──その名も「校長室」。
 『髪が伸び続ける校長室のカツラ』の伸びるカツラって何だろう? 疑問は未知への探求心。
 肝試しというだけで怖がっていた子も、始まった途端、皆と一緒なら怖くないとばかりに集まってくる。
(「あれは…カツラ…なの…かな」)
 自分より年上が多い子ども達の安全を気にとめつつ、永久は思ったが口に出せない。
 深く考えてはダメですわ…─と、スリジェは、ふっと遠い目をした。
 歴代校長の写真、トロフィーの数々……しかし一点だけ異様な調度品がある。
 ソファーに掛けられた大きな黒毛皮がそれだ。
 髪だ……。
「このけがわ、きもちいーね」ソファーにすり寄る子ども達に、スリジェは、ひぃっと悲鳴を押し殺した。
「カツラってどこー?」
 伸びるかはさておき。あなた達のおしりの下ですわっと、叫びたかった。
「ところで、そこの人達、だーれ?」
 すっかり恐怖心が解れたか子ども達は無邪気に問いかけ、所在無さげに立ち尽くしていた着物お化け達を飛び上がらせた。
 しまった! 毛皮に心奪われ、お化けの本分を忘れていた2人。
 しかも、脅かし方も特に考えていなかった!
「仕方ありませんわ。踊りますわ、わたくし」
 きりりっと決意を固め、よいよいと腕を振り上げ踊り出すスリジェ。
「う ら め し や〜〜」──あーよいよい。
 永久も一緒に小さい腕を持ち上げ踊り出すが、首を傾げてしまう。
「スリジェせんぱい……それなにか…まちがってるの……」
 ──自信、ないけど。

●こちら2階、異常なしだ
 泣き出した子もいるけれど、皆賑やかで楽しそう。
 廊下の窓は黒幕で覆われ、お化けのオブジェが沢山。鎧武者に、柳下の幽霊、絵本の桃色お化け─全て先生達の力作が展示されている。
 毎年、新作は増えていくのだし、『壊されたって、へっちゃらだぃ』という剛毅な先生達の意志が溢れている。不器用な絵もあれば、精緻な幽霊人形もあったりして、そのアンバランスさが子ども達の恐怖心を堅くしたり柔らかくしたりしているらしかった。
「ケゼンディアさん、理科室も音楽室も何事もなくて良かったねっ」
 廻達は元気に探索継続中。
 ケゼンディアはゴーストが出現するならば、実験器具や薬品がある理科室が、最も危険だと危惧していたが、室内は棚も実験机も黒幕で保護され、全身黒タイツに髑髏を描いた骸骨団(自称『若手教師』有志の集まり)による楽しいダンスが繰り広げられているだけだった。
 訪れた子達も皆一緒にダンス! ダンス!
 ちょっとこれでは、とても怖い場所とは思えなかった。
 音楽室も耳を引き裂く破壊音と子ども達の悲鳴に、「ゴースト発見っ?」と叫ぼうとした廻の口を、ケゼンディアがよく見ろと素早くふさぐ羽目に。
「きゃー」
 喚声をあげる子達に囲まれて、中世の貴婦人が超速に狂喜乱舞しながらグランドピアノの鍵盤を叩いていた。ピアノの下から、ぼわーと照明で照らされる厚化粧は不気味で怖い筈なのに、子ども達は愉快に大興奮。
「ぁ…も、もうお止めになってぇ……」
 破壊音に負け、素敵な女声で悶える口裂き男の横で、廻はこう云った。
「ねっ! もし2階に永久君が来たら、目をくるくるさせそうだねっ」
 困りながら、こう云うのじゃないかな。
 ──あのおばけさんは、いいおばけと、わるいおばけ。どっち、かな?
 予想なのだけれどねっ!

●ぬけみち、みつけた…の
「イヴ…こ、こわいの…にがて…だけど…っ…がんばる、なの…!」
 ワンピースに頭から白布を被った泣き虫お化けイヴ・トゥルス(小学生フリッカースペード・b01585)は、白とは相対色のゴスロリ装束で吸血鬼に扮した月詠・アリス(中学生魔弾術士・b02898)と仲良く一緒。
 3階は階下に留まって騒いでいる子が多い所為か、人の数が少ない。
 それなら好都合と白黒お化け達は、堂々と探索中だった。
 『黒板消しが飛び交う3階廊下』では、大きなスポンジを幾つも通した細いゴムが縦横無尽に蜘蛛の巣の如く張り巡らされていた。
 スポンジに薄く白墨が付着している辺り、これが黒板消し代わりらしく、小さい子なら隙間を縫って通る事も容易で、わざと巻き付いて遊ぶ子も居た。
「たのし…そ…なの」
 律儀にお化けを頑張るイヴはそれらを見て呟く。
 アリスが施錠された薄闇の教室内を覗くと、『窓際席に座る怪人』の怪人と思しき人影が見えた。
「…マネキン……かしら」
 次の隣の教室も覗くと、また怪人が居る。
 ただ、先程と様相が違う。さっきは窓際の席に座っていたのに、今度は立ち上がっていた。
 その静かな変化に気づいた時、子ども達の喚声に背中をざわりと撫でられ、守るべき対象を背後に強く意識してしまった……。
 アリスは昂ぶる神経を鎮め、隣で震えるイヴの手を柔らかく握ってあげた。
 怪人はその次も次も教室を覗く度に移動していた。
「滑稽…ね……」
 堅く閉ざされた窓ガラスを、かりりと付け爪で掻く。
 そして最後の教室を覗いたその時──。
 ばんっばんっばんっ!!
 突然の打撃音が、イヴ達や周囲の子達を襲った!
 教室の中から複数の怪人達が一斉に窓を叩き始めたのだ。見る間に窓を埋め尽くす無数の赤い手形。驚いた子は走って逃げたいのに、ゴムに絡め取られ動けなくなる。
 蜘蛛の如く絡め取る─糸。
 誰かが叫んだ。
「あ! 先生だー」
 その瞬間、怪人達は一斉に動きを停止し、汚れた窓を雑巾で拭き始めた。
 覆面を脱いだ素顔は、笑顔がきらりと青春の汗を輝かせている。
 ─…いい大人が…何を……やっているのかしら……。
 アリスは侮蔑の目で怪人達を見やり、廊下をイヴと一緒に抜けきった。
 3階も……ハズレね。

 それから2人は4階へ続く廊下突き当たりの階段へ戻り、先程と同じく多量の机と板で完全封鎖されている筈の場所に、小さな綻びが生じている事に気づく。
 自分達が探索に回っている間、誰かがここを通り抜けた─その形跡を。
 4階担当の灯神・漣弥(小学生符術士・b03209)と島宮・火蓮(高校生符術士・b01973)達の仕業だろうか?
 ──それとも?
「あ、アリスおねーしゃん…メール…き、たの……」
 その時、正義のお化け達の元へ、火蓮から緊急召集が一斉送信されていた!

●屋上階段にゴースト発見よ!
 4階へ到着するには、少し手間取った。
 調査場所は各担当者に任せ、一気に通り抜けるつもりだったが、肝試しの順路は一方通行で、各階にある階段は幾つか完全封鎖。
 そして4階は毎年必ず屋上へ出る児童が居る為、今年は立入禁止になっていた。
「灯神くんが校舎内の間取りを把握してくれていて助かったわ」
 4階へ到着した時、火蓮はホッとしたように感謝を述べた。
 漣弥は怪人の如くシルクハットを、気障に押し上げ微笑する。
 転々と非常灯の淡い緑の反射光が白い廊下を染め上げる無人の空間。
 4階が閉鎖とはいえ、ここにゴーストが現れぬという保障はない。
 いや、無人だからこそ。
 『真の恐怖』とは、あたたかいお化け達に脅かされ生まれる物ではない。静寂の闇と孤独、本物の恐懼の場所にこそ芽生える感情。
 その時、2人の耳に細い悲鳴と泣き声が届いた。
 階下の喧騒で聞いた悲鳴とは全く異なる、死を拒絶する絶対的恐怖の叫びを!
「屋上階段の方ですね!」

 そこには割れた鏡の破片を踏みしめ、屋上への扉を背に立つ地縛霊がいた。
 辛うじて人型と呼べるその姿。
 頭部から生えた血糸の髪は全身を簑のように覆い、傍らの大きな糸玉を武骨な手で右、左と揺らす様は2人を戦慄させた。
「何てこと!」火蓮は悲鳴をあげた。
 糸玉からは数人の子ども達の顔だけが突き出ていた。呼吸器官は確保しているが、体は糸玉の中で数人絡まった状態で拘束され、苦しいのだろう─涙をぽろぽろ流しながらうめいていた。
 眼前にして肌が粟立つ。
「私達は正義のお化けだわ。脅かす事もするけれど、子ども達を守って戦うお化けなのよ!」
 そして戦端が開かれた。
「灯神くん、行くわよ!」
「ええ、やりましょう。島宮先輩」
 小さな自然の民コロポックルに扮した年上の少女と、深紅のマントを纏い叡智の瞳を持つ少年は、カードを掲げ、起動の鍵を今ここで叫ぶ!
 ──イグニッションッ!!
 皆が到着する迄、自分達はやるべき事を果す!

 その頃、皆は緊急召集に 『屋上へ続く階段踊り場の赤い鏡』を目指していた。
「俺様の行く手を阻む物、許さねぇ! 横がダメなら縦行きゃいいじゃねぇかぁ」
 女装はしてもズボンにスニーカーは正しかった。廊下無視! 階段の障害を直通狙いで乗り越えるケゼンディア。
「無茶苦茶なんだよぅーっ」廻が背中の薪を捨て、後に続く。
 4階の階段で机を一つずつ下ろし、隙間を作って通ろうとしていた白黒お化け達と合流。
「ふぇ! ……ぅ」
 しかし薄闇に突如現れた口裂き男に、泣き虫お化けは驚いて泣き出した。
「イヴを…泣かせ……ないで……」
「泣かせちゃダメだよっ!」
 静かなる怒りのオーラを発するアリスと廻が同時に口裂き男を叱った。
 続いて階下から駆け上がって来る白い着物のペア。
「スリジェせんぱい、…ずっと、おどってるから……おくれて、めーなの」
「わたくし、単にお化けのふりをしていただけですわーっ」
 来た!
「さあっ。行っくよ──っ!」
 廻の叫びが、全ての意志を引き寄せ一つにする。

●本当にこわがらせるのはめー、なの!
「招かざる客には退場して頂くとしましょう」
 ──私達と一緒に、ね。
 駆けつけた能力者達は次々と起動開始する。
 漣弥が頬の血を拭い、龍顎拳を地縛霊へ叩き込むと、永久、ケゼンディアが放つ気の塊が地縛霊と糸玉の間を分断した。
「いたいよー」
 火蓮とアリスによって糸玉から解放された子ども達は、階段で蹲っていた。
 黒マントを片手で広げ、進み出るアリス。
 くすりと嗤う口元から流れる異国の言語は、呪術めいて耳朶に届く。
 ──困った子達ね。早く皆の処へ、お帰りなさい……。
 そう告げた時、きゃあ! と子ども達は一目散に次々と階段を駆け下りて行った。
 その様子を見届けた永久が、強い意志を瞳に宿し呟いた。
「いま、みんな、泣いてたよ……」
 幼いながらも、永久には理解出来ていた。
 悪いおばけは、皆に危害しか与えないのだという事を。
 いいおばけだっている。そう信じていきたい。
 ─けれど! ここにいるおばけは、皆を傷つけた。
「なんで、こんなことしたの」
 ねぇ! つー……と、涙が頬を伝う。
 悪いおばけ。身体には混迷の闇へ繋がれた鎖が生え、血肉を欲するではなく『殺したい』。その憎悪の念のみが存在の意義。
 哀れ、人型よ。なれど苦衷の想い、今消滅せしめん!
「足元は階段よ! 皆気をつけて」
 注意を促す火蓮の傍らを走り抜ける白い影。
「神聖な学舎に巣くうとは言語道断! 拙者、くのいちスリジェ。お相手つかまつる!」
「「拙者──っ?!」」
 上品な物腰の女子高生が一変し、着物の裾をはためかせ忍言葉になる様に、一同度肝を抜かれた! まさか……いや、そんな! 脳内でぐるぐる思考が混乱。
 階段を一気に駆け上がり地縛霊との間合いを詰めるスリジェ。
 飛来する血糸を手甲から伸ばした鋼糸で斬り落とす。子ども達には解けなかった束縛も能力者を捕らえる力が、この地縛霊の血糸にはなかった。
「…楽にしてぁげる…から…♪ ……〜♪」
 イヴの歌声が響く中、正義のお化けの必殺技が炸裂しようとしていた。
「わるいおばけさんは、ちゃんとおしおきするよ!」
 永久が放つ気の塊─雑霊弾。
「おもしれー! くくく。俺様と共に逝こうぜぇ」
 ちょっと素敵なケゼンディア。
「皆の愉しいって気持ちを台無しにするのは許せないよ!」
 廻の突き出す炎の魔弾。
「我等こそが闇の住人。悪しき偽者よ! 我等の住処を荒らすとは不届き千万。この『怪人レッドマント』が天誅をくれてやろう!!」
「漣弥くんっ、口上が長いと思うんだよっ」
「柚花先輩。いい所なんですから、黙ってて下さい……」

 ──せーのっ!!!!!
「「「この世界から消えろ!! ゴーストぉぉ──!!!!!!!」」」

 ばぁああああんっ。
 揺ぎ無い正義の力が地縛霊の身体を、背後の屋上への扉に叩き付けた!

●まもなく退場の時間
 地縛霊の姿はゆるやかに存在全てが欠け、消失していった。
 屋上へ出ると、視界が開けた事に一瞬虚を突かれた。
 ゆっくりと歩を進める。
「おつかれさま──っ!」
 廻が空に腕を突き上げて叫んだ。全員が頷いた。
 肌を撫でる心地よい安寧の風に、暫し身を委ねても良い気がした。その後は正義のお化けも颯爽と退場しよう!
 火蓮が背伸びして屋上の柵から地上を見下ろすと、肝試しを終えた子ども達が楽しげに宿泊所の体育館へ歩いて行く姿が見えた。
 きっと心に勇気の勲章をぴかぴかに光らせて。
 ──私達は、ちゃんとあの子ども達を守れましたよね?
 自分達の手から零れるように逃げた子ども達。無事でさえ居てくれるなら、それで良かった。
 どうか今夜の出来事を楽しい思い出に。
「おばけさん、ひとりでさみしかったのかなぁ……」
「そう…なのかもしれないわね」
 イヴがポケットに大事に入れていた白い花弁の花一輪は、取り出した途端、手から風に攫われ空へ高く高く舞い上がった。

 その様子を正義のお化け達は、微笑みながら暫し見守り続けたのだった。