夜街活動

<夜街活動>

マスター:神月椿


「良く来てくれたな」
 運命予報士の王子・団十郎(高校生運命予報士)は集まった能力者を見やって、頭を掻いた。

 日も暮れ、夜の帳を降ろし始めてもなお賑わいを見せる繁華街。
 きらびやかなイルミネーションを灯すことでよりいっそう人々は賑々しくなる。
 そんな街中に一人の少女がいた。年の頃は17,8歳。長い黒髪をきつく巻き、アップにして纏め、薄く紅を刷いた唇は少女をコケティッシュに見せた。
 少女は何かを探すように、何かを視るようにゆっくりと歩いていた。そして目的のものを見つけると彼女は、うっとりと嬉しそうに口の端を歪めた。
「ねぇ、わたしと遊ばない?」
 声をかけられた青年は、唐突に声を掛けてきた少女に怪訝な顔を向けた。
 少女はその反応を楽しむように、青年へ一歩近づく。さりげなくその豊満な肉体を寄せ、上目遣いに青年を見上げると、すぐ傍にある胸が逸るのを感じ取った。
 戸惑う様子で見下ろしてくる青年に、少女はくすっと微笑みかけると何気ない足取りで人気のない路地裏、更に奥の空き地へと導いた。
「ほら、こっちよ」
「え、ちょっと……」
 強引に腕を引っ張られ、反射的に後ずさると腕に思わぬ圧力がかかり青年は顔を顰めた。
「なぁに、ここまで来て帰っちゃうの? そんなのつまらないじゃない。いい子だから……わたしの餌になってよ」
「っ?! ぅぐあっーーーー!!」
 腕に鋭い爪が突き刺さり、絶叫を上げる。必死に振りほどいて逃げようとすれども、足は締め付けられ動けない。その間にも身体のあちこちが傷つけられていく。
 鋭い痛みの中、何故こんなことになったのだろう、と青年は薄れゆく意識の中考えながら絶命した。
 少女は青年を腕に抱いたままで気持ち良さそうな吐息をつき、艶然と微笑んだ。

「リリスは能力者の素質を持つ者を襲う。このまま放置すれば未来の仲間を、もしくは戦闘能力のない者をみすみす死なせてしまうことになる」
 そうさせない為に皆に集まってもらった。と王子は続けた。
「彼女の狩りの時間は、午後7時頃。繁華街の中で、程よく人の通りの少ない場所に出没する。このリリスは俺達にとって幸いにも力を使う能力者に出会ったことはないらしい。皆と出会っても餌の山、とすぐにおびき出されるだろう」
 変化を解いたリリスの姿は美しくも妖艶な肢体を見せ付ける美しい女で全長3mの蛇をまとう。攻撃の特徴として鋭い爪が伸び、素早い動作で接近戦を仕掛けてくる。ただし腕力は弱い。
 リリスが使う空き地の広さは幅20m、長さ30mとかなりの広さがある。夜の繁華街ビルの間ということで、人気もなく、多少の騒音も気付かれないだろう。
「説明は以上だ。間違ってもリリスに乗せられないよう気をつけてくれ」


<参加キャラクターリスト>

このシナリオに参加しているキャラクターは下記の8名です。

●参加キャラクター名
一本槍・風太(高校生ゾンビハンター・b04852)
芹田・俊一郎(高校生ゾンビハンター・b04665)
継夜・裕一(高校生魔剣士・b06839)
虎深山・美津穂(高校生ファイアフォックス・b02473)
天道院・涼子(高校生魔剣士・b01387)
如月・清和(高校生青龍拳士・b00587)
穂波・影虎(高校生青龍拳士・b00636)
儚・幻(中学生ファイアフォックス・b02945)





<リプレイ>


●夜ノ街
 茜色の空が少しずつ闇に溶けてゆく。けれど、繁華街はそんなことを知らぬように賑やかに明るく活気で満ちていた。
 繁華街から少し離れたビルの屋上に、精悍な顔つきの少年が一人立っていた。
「これ以上ゴーストの被害を出す訳にはいかない!」
 芹田・俊一郎(高校生ゾンビハンター・b04665)は、殺された人々を思い、己が自尊心に懸けて誓う。
 俊一郎はただ立っているわけではない。求めているのだ。今回の標的、リリスを。
 細く強い音を立て風が吹き抜ける。
「……あっちか?」
 一方向に感じる気配。俊一郎はおもむろに携帯を取り出し一本槍・風太(高校生ゾンビハンター・b04852)に連絡を取った。
「一本槍どうだ? 繁華街の東、たぶん例の空き地の方向にいるとは思うんだが」
 渋い表情で再確認する。正確な場所や数などは分からないが、少なくとも今感じている方向以外には居そうにない。
 連絡を受けた風太のギラついた瞳は、俊一郎と同じように周辺を探り、同様の見解を述べる。
「俺も同じ、だな。囮班に連絡するぜ」
 まるで見当違いの方向に感じることはない。それだけでいい。後は近くで待機している囮班に任せるしかないだろう。
「ああ、そうしよう」
 携帯からの同意に、あらかじめ決めていた連絡相手に行動開始を伝えると携帯を仕舞い、俊一郎は問題の空き地へと急行した。

●誘出シ
「ようやく活動開始か」
 索敵班からの情報に穂波・影虎(高校生青龍拳士・b00636)は、喫茶店から出た。連絡が来る前も、喫茶店の窓際を陣取りそれなりに行き交う人々を眺めていたが、それらしき人影は見当たらなかった。それもそのはず。少し当てが外れ、そこそこの人通りを思えば当然ではあった。
「見つけられるといいが」
 影虎はリリスを求め、人通りの少ない通りを適当にブラつき始めた。

 連絡を受けてから如月・清和(高校生青龍拳士・b00587)は、すぐさま連絡用メールを呼び出し、携帯をポケットに突っ込んだ。それから空き地周辺を歩いて、それらしき少女を探す。
「……ビンゴ」
 程なくしてお目当てが網にかかった。きつくカールさせた長い黒髪に紅い唇の妙に艶っぽい少女。そして何かを探す素振りで歩くあの姿。まず間違いなくあれだろう。
 清和は少女との距離を詰めながら、携帯を取り出し当たり前の仕草で仲間にメールを送信し、携帯を閉じる。そうして問題の少女に視線を向ければ、少女もこちらを見ていた。
「君の名前は……?」
 まるで惹かれるように問いかける。
「人に名前を聞くなら、まず名乗るのが礼儀なんでしょ?」
 少女は小首を傾げ、くすくすと小馬鹿にした笑みを浮かべる。清和は気を悪くした風もなく、素直に名を明かす。
「それで君の名前は?」
「ナイショ。でも、そうね……一緒について来てくれれば教えてあげないこともないわ」
 ふふふ、と少女は楽しい思いつきをしたという風に、清和にしなだれかかる。いちにもなくその誘いに応じた。元よりそのつもりなのだから。
 少女と談笑するうちに気がつけば例の空き地に辿り着いていた。まだ誰も居ない。
「何考えているの?]
 一瞬気を逸らしていただけだというのに、いつのまにか腕が首筋に回され、紅い唇がすぐそこまで近づいていた。
「こういうことやめる事はできない……?」
 押し付けられた胸にどきまぎしつつ、ばっと身体から引き剥がすと、少女は目を見開いた。そして空き地の入り口に立つ二人の人影に気付く。
 清和は少女から間合いを取り、イグニッションカードを手にする。
「害なす者を牙が斬る! ……魔導特捜ザンガイガー推参!」
「な、……一体何なのよ?」
 自分を囲む少年少女と目の前で突如高まる力に戸惑いを見せる。
「さ〜て、遊ぼうぜ、リリス!」
 呆然としているリリス相手ににやっと笑いかけ、影虎は一直線に駆け、真正面から短棍を叩き込んだ。リリスはスカートを翻し、軽やかに後ろに飛び退る。影虎は金の瞳を細め、逃がすかとばかりに開いた距離を一気に詰めて、拳に青き龍の力を宿し短棍を振るう。さしものリリスも避けきらず、短く声を上げよろける。
 よろけた先には天道院・涼子(高校生魔剣士・b01387)が静かに立っていた。
「リリス……能力に目覚めていない者を狙って労せずに勝つ……とても卑怯……。誇りある戦士として……卑怯者は許さない……」
 静炎。青い髪を揺らし、怒りに燃える涼子はまさに静かに燃える高熱の青き炎。青く冷めた瞳でリリスに斬りかかる。
 よろけてもなお、リリスの素早さは上回るのか難なく避けられた。けれどもようやく危険を感じたのか、リリスはその正体を現し、美しくもしなやかな肢体と共に大蛇が顕現させる。
「……そう、なんだか分からないけど、あんたたち私の大好きな力を持っているのよね。大人しく餌になりなさいな!」
 くるくるの髪を乱れさせることなく、リリスは鋭い爪を横薙ぎにし、影虎と涼子からの攻撃を戯れるかのように避けていく。どうやって料理してやろうと考えていたリリスは、不意にぎんっと鋭い爪で何かを受け止めた。
 継夜・裕一(高校生魔剣士・b06839)が闇に潜むかのように死角から剣を振るったのだ。爪で剣を払い除け、大蛇の身体で裕一を締め付けてやろうとするリリスの背に強い衝撃が走った。裕一はすぐさまリリスから距離を取る。リリスは裕一よりも自分を撃った者をきっと睨む。虎深山・美津穂(高校生ファイアフォックス・b02473)がリリスを睨み狙いを定めて、ガトリングガンを構えていた。見れば空き地の入り口に程近い場所で儚・幻(中学生ファイアフォックス・b02945)もまた美津穂と同じような構えで立っている。リリスはいつのまにか取り囲まれていることを悟った。
「仲間が増えたっていうの?!」
「その通りだ。大人しく観念しろ」
 美津穂がうねる大蛇に注意を払いながら答える。
「観念して、殺されろっていうの? 冗談じゃないわ! 私はまだまだ食べたいのよ!」
 美津穂の答えにか、狭まる包囲網にか、リリスは苛立つように大蛇の尾を振るい、目の前にいた涼子に鋭い爪を見舞う。が、影虎に横合いから押し止められ、爪は涼子の腕を僅かに掠り、薄く血を滴らせるだけに終わった。
 浅い傷のことなど気にせず涼子はちゃきっと剣を油断なく構えている。
「気に入らないわねぇ!」
 爪に残る涼子の血をぺろりと舐め取ると、リリスは勢いよく尾を振るった。それは丁度リリスの横に陣取っていた清和に当たり、地に伏した。
「うっぐぅ……」
 清和が伏したのを機に、開いた空間を利用し涼子はざんっと横薙ぎに剣を振るう。
「そんな攻撃当たると思わないでちょうだい!」
 一人を倒したせいか、涼子の剣が大蛇に掠ろうとも大口を叩き、嘲笑う。
「はっ!」
 そんなリリスに影虎は真正面から素早い動作で挑む。次第に上手く連携を組み始める二人はリリスを圧していった。
「如月、無事か?」
「……なんとか」
 裕一に声を掛けられた清和は呻きながら、起き上がる。
 ずるずるっと大蛇が地を這う音が耳に入る。戦闘中の三人は徐々に場所を移動していた。
「ならいい」
 裕一は隙をみつけたのか、リリスめがけて駆けていった。

●逃ゲ道
 集団戦に不慣れであることを自覚していた裕一は、一撃くれてやるとまた後ろに下がった。それは予感でもあった。
「……嫌な、感じだ」
 裕一は呟く。何をする気だ、と気構えていると闇を纏った涼子の大上段から振り下ろされた一撃が決まる。腕を切り落とされたリリスが怯んだ。
「やれるか……いや、儚、逃げろ!」
 怯んだと見えたリリスは、口の端をにやりとさせ、踵を返した。そこにいるのはガトリングガンを構えた幻のみ。
「あ……」
 手負いとは思えぬ素早い動きに、真白の髪が躊躇に揺れる。撃とうとするが、リリスの後ろにいる仲間が目に映ってしまったのだ。その躊躇は幻を窮地に追いやった。
「はぁはぁ……馬鹿な子ねぇ」
「それはどうだろうな」
 傷つきながらも余裕の笑みで幻を襲い、逃走しようとしていたリリスに猪突の勢いで迫り攻撃を加える人影。索敵を行っていた俊一郎だ。
「待たせたな。逃げられると思うんじゃねぇぞ?」
 入り口、リリスにとっては退路となるそこを風太は陣取り、ハンマーを油断なく構える。
「っく、何よなによ!! イライラするわね! ご馳走のくせに生意気!!」
 俊一郎の不意打ちに加え、門番となった風太を苛立たしげに睨み付ける。
「ご馳走というなら、手ごわくて当然じゃないのか?」
 影虎が再び拳に青き龍を宿し一撃をくれる。
「きゃあああ!!」
 手負いのリリスはひとたまりもなく、地を這う。それでも逃げようとするかのように、手を伸ばす。
「テメェはあの世で相手してくれる奴を漁ってな!」
 深手を負ったリリスに、トドメの一撃、と美津穂は炎の弾を撃ちこんだ。

●終ワリ
 声にならない断末魔が響き渡る。あとには何も残らない。
 涼子はちらりと空き地の入り口となる方を見遣った。風太は気付いて、大丈夫という素振りを見せた。近くに人は居らず、さっきの声が繁華街にまで届く心配はないだろう。まだ夜は始まったばかりだ。繁華街はまだまだ賑わいを見せる頃合だ。
「あの、傷をこの子で治してください……」
 幻はモーラットを差し出し、主に傷を負った前衛の清和、涼子、裕一、影虎に声をかけた。
「お願いする……」
 清和は強く打っただけだと、遠慮したため、涼子が進み出て治療を受けた。面には出さないが、幻は心なしかほっとした様子を見せる。
「終り終りっと、そんじゃ、繰出すとしますか」
 大方の治療を終えると、影虎が軽い調子でその場から離れた。
「軟派な奴を相手すると、どっと疲れる……」
 影虎に当てたわけではない呟きと共に溜息を吐くと美津穂は帰路を辿る。他の面々もまた思い思いにその場から立ち去ったのだった。