夏だ! 海だ! どざえもんだ!?

<夏だ! 海だ! どざえもんだ!?>

マスター:空白革命


 クーラーの効いた部屋。
 そこは夏のパラダイス。
「しかしもっと良い、もっと素敵なパラダイスがこの世界にはあるんだ」
 王子・団十郎(高校生運命予報士)は扇子をヒラヒラさせていた。
 滴る汗を拭い扇子を閉じて、真面目な顔になる。
 ご注目あれ、ここからが事件の本題である。
「皆、海に行きたくは無いか」
 重ねて言おう。本題である。

 某海水浴場にてリビングデッドが現れた。
 こいつは人を海底に引きずり込んで殺してしまうのだと言う。
 運命予報士こと団十郎は依頼内容をこう語る。

 海と言えば夏。サマーと言えばシーだと俺は思うんだ。
 しかしそんな真夏のパラダイスを少年のリビングデッドが荒らしている。
 こいつに襲われた人間は足を引っぱられて溺死させられると言う。
 肉体はかなり腐敗が進んでおり、能力的には雑魚だが、放って置く訳にも行かないと言うわけだ。

 皆にはその海水浴場に行ってリビングデッドを退治して欲しい。
 今や海水浴場は被害者の噂が広がった所為で人はガラガラだ。それだけに、そいつは海に潜れば自ずと寄って来るだろう。
 このリビングデッドは泳ぎが速く、尖った爪での斬撃で攻撃してくる。誰かが囮になるか、水中で上手く行動できる人間が捕まえるかして倒してくれ。

 そして倒した後は勿論自由行動だ。
 正にプライベートビーチ状態だから存分に遊べると思う。
 海の家が閉まっているのが惜しい所か。水着姿の美女が予め群れていないのも一部の層には残念かもしれない。
 しかし、まあ……良いぞ、海は。

 団十郎は緩んだ顔をきゅっと整えると再び扇子を開いた。
「簡単な依頼ではあるが、放って置けば新たに死者が出る。そういう事件だ。よろしく頼むぞ」


<参加キャラクターリスト>

このシナリオに参加しているキャラクターは下記の8名です。

●参加キャラクター名
一橋・拓也(高校生青龍拳士・b00746)
芹沢・蜜柑子(中学生ファイアフォックス・b03734)
轟・轟轟(中学生水練忍者・b02870)
獅子戸・大河(中学生水練忍者・b03822)
鷹都・香(小学生ゾンビハンター・b00292)
日向・るり(中学生水練忍者・b06322)
緋村・蓮(中学生フリッカースペード・b05247)
楊・美龍(中学生霊媒士・b06795)




<リプレイ>


●私を浜へ連れてって
 水の中。水疱の上がる音が大きく聞こえる。
 水面では波に合わせて光が散り、まるで輝く雨のようだった。
 そんな中を、日向・るり(中学生水練忍者・b06322)は泳いでいた。
 海をぐんぐん泳ぐ少女の姿は微笑ましい。
 が、それがリビングデッドに追われているとなると話は別である。
 彼女らが浅瀬までリビングデッドを誘き寄せ、皆でわっと攻撃しようというのが今回の作戦なのであった。
 るりが横を向いて仲間に目配せをする。
 目配せの意味を強いて言葉にするなら『あのリビングデッド、泳ぎ速いですね』である。
 横を泳いでいた轟・轟轟(中学生水練忍者・b02870)が『おう、攻撃に気をつけようぜ』という意味合いの目配せを返した。
 そんな二人を獅子戸・大河(中学生水練忍者・b03822)が追い越し、『急ぐぞ』の合図を出した。
 二人が同時に頷き、泳ぐ速度を上げる。

 一方その頃砂浜では、リビングデッドを今か今かと待ち受けている者達がいた。
「ああ、早く海で遊びたいさ」
 海は広いのだとか大きいのだとか言う歌を途中でキャンセルし、鷹都・香(小学生ゾンビハンター・b00292)が遠い目をしてぼやいた。
 零れる愚痴。そして溜息。
「もう暫くの我慢よ」
 緋村・蓮(中学生フリッカースペード・b05247)が冷やかな口調でそう言った。視線は沖を向いたままである。
 ちらりと蓮の顔を見る香。
 沖を見つめる彼女の冷淡な眼差しは正にクールビューティー。香も、何だか少し心地がよかった。
 蓮にならって沖を見つめる。
「あー、早く終わらせて泳ぎたいさぁ……」
 零れる愚痴。そして溜息。
 こんなゆったりとしたテンションの二人とは対照的に、海を前にしてガンガンテンションを上げている者もいた。
「初めてですわ〜、ニッポンの海!」
 そう言いながら楊・美龍(中学生霊媒士・b06795)はもう上機嫌である。
 青い空!
 白い雲!
 メロンのようなバスト!
 そうここは夏のパラダイス。
「この日の為に水着もホラ♪」
 くるりと回って、幾度目になる水着披露を敢行する。
 メロンのバストを持つ乙女、美龍である。その水着姿には非常に注目度があった。何故とは聞くまい。香や蓮の視線も何気にこっちに移りつつある。
「気持ちいいですわー」
 開放的になった美龍はぐいっと背伸びをした。
 集まる注目。何故とは聞くまい。
「さっさと倒して、早く泳ぎに行きましょう!」
 テンションが上がっているのか、美龍がぴょんと飛び跳ねた。
 再び集まる注目。やはり何故とは聞くまい。
 そんな中、再び沖に視線を戻した蓮が小さく声を漏らした。
「……そろそろだわ」

 一橋・拓也(高校生青龍拳士・b00746)が拳を握って立っている。
「夏の海に潜む少年リビングデッド……フ、正に夏男だぜ、お前は」
 不敵に笑う拓也。自分の顔を親指で示して、叫ぶ。
「しかぁし! 真の夏男は……この俺だ!」
 そこまで叫んで目を瞑る。
 この日差し。この漣。正に俺のプレイス。
 そして拓也は右横……いや、右の足元に目をやった。
「で、その格好は何だ?」
 目線の先では芹沢・蜜柑子(中学生ファイアフォックス・b03734)が砂に絵を描いていた。
 描かれているのはなんだかドクロっぽいクマである。
 そして蜜柑子は……ジャージ姿である。
「芹沢はですねー」
 テンション低めの蜜柑子。
 拓也がうむと頷く。
「前に皆の前で『ジャージで泳いできます』って宣言しちゃったのですよ」
「おう、それは不自然だな!」
 沈黙の蜜柑子。
 腕組みする拓也。
「で、でもきっと普通のお客さんっぽく振舞えば……自然……」
 沈黙の蜜柑子。
 首を振る拓也。
「やっぱり不自然ですよね! ぬ、脱ぎますー!」
 一息でファスナーを下ろし、素早い動きで上着を投げる。
 青い空にジャージが舞った。ついでに短パンも舞った。
「ふふふー。実は芹沢、今日はとってもお洒落な水着を着てきたんですよー! きゃーきゃー!」
 蜜柑子テンション復活!
 水着姿でぐいっと胸を張る。
 それはドクロっぽいクマがプリントされていた実に可愛らしい水着であった。
 と、その時。
 轟轟の声がした。
「おらぁ! 敵さん連れてきたぜ! さっさと倒そーぜ!」
 一橋と蜜柑子はお互いに顔を見合わせた後、ほぼ同時に走り出した。
 砂に書いたドクロっぽいクマが、波に攫われて消えた。

●渚のデストロイ
 大河達を追って浅瀬に上がってきたリビングデッド。本来なら水の中だけで活動する彼も、久しぶりになる人間の到来に際しつい深追いしてしまったようである。
 そんな彼を中心に、メンバー達が半円状に展開して立っていた。
 包囲完了。既に皆の心は一つである。
 そう、『早く倒して遊びたい』と。
「漫研部長、一橋拓也。いざ参る!」
「同じく芹沢蜜柑子、行きまーす! きゃー!」
 拓也と蜜柑子のダブル龍顎拳がリビングデッド顔面に決まった。実にいい音がした。
「フ、漫研は無敵だ!」
「漫研は関係ないですよっ!? っていうかキモイ! 芹沢キモイの触っちゃいました!」
 手を振りながら突っ込む蜜柑子。
 それでも勝ち誇る拓也。
 そんな間に美龍の雑霊弾がリビングデッドの腹にヒットする。
「これでアンタもこっぱみじんこアルヨ!」
 豊満な胸を張って指を指す美龍。
 口調がおかしいのは戦闘中だから、である。
「間髪入れずに、成敗ー!」
「こっちも……スケルトン、お願いっ」
 美龍に続いて香のハンマーが後頭部に命中し、蓮の雑霊弾が即頭部に炸裂し、蓮が放ったスケルトンの剣が反対側から叩き込まれた。
 様子を見ていたるりが「うわあ」と感嘆の声をあげた。
「リビングデッド、滅多打ちにされてますね」
「ああ、五人がかりだものな」
「いや、スケルトンも混じってるから六人がかりだぜ」
 リビングデッドが逃げないようにと道を塞ぐ大河達だったが、その必要も無く決着がつきそうであった。
 ただでさえ腐敗が進み脆くなっているリビングデッドである。
 彼は顔面を初め以上にぼこぼこにしながら、どっさりと崩れ落ちた。
 そんな様子を見て、るりがにっこりと笑う。
「折角だから、お土産にどーぞ♪」
 そう言って、炎の魔弾を放った。
「トドメだな」
「ああ、あれは死んだな」
 轟轟と大河が、とうとう動かなくなったリビングデッドを見ながら頷き合った。

●夏のお嬢様
 青空に舞うTシャツ。ついでに舞う短パン。それら合計三人分。
「うおおおお! 海! 海だぜ! 海いいいい!」
 轟轟が海に向かって走っていく。
 人がガラガラなのはちょっと寂しいが、その分満喫してやろうと轟轟は思った。
 彼の目は今、太陽にも負けぬ程輝いている。
「きゃぁー! やったさー! 海さ海ぃー!」
 既に浮輪をスタンバイさせて入水する気満々の香。
「なあなあ、泳いでいいいさっ?」
 今すぐにでも飛び込むぞと言わんばかりの調子で、傍で準備運動をしていた拓也に問いかける。
「当たり前だ、海だからな! 遊ばにゃ損だぜ!」
 運動を終えたか、深呼吸をしてよしと叫ぶ。
「遊ぼう! 皆ー遊ぼうさー!」
 拓也と香、そして轟轟は揃って海に飛び込んだ。
 着水と同時に泳ぎ出す拓也と轟轟。
「海に着たからにはやっぱ泳がなくちゃなあ、轟ぃ!」
「ああ、とりあえず泳いどかねえとなあ、一橋ぃ!」
 舞い上がる飛沫。
 高まる波。
 そして、物凄いで沖へ沖へと小さくなっていく二人。
「す……凄いさ」
 余波に流されながら、香は遠くなる二人を見送った。
 いや、流石に追いつけないさ、と。
「元気ですねえ、二人とも」
 流れてきた香の浮輪を受け止めつつ、るりがしんみりと呟いた。
「あの二人でなくとも元気になりますわ。泳ぎ放題ですもの」
 胸を張る美龍。例によって集まる注目。
 対してるりは遠い目をした。
「海に来ると、なんだか修行のことを思い出します。あれは……」
 言いかけて、首をぶんぶん振った。
「いけませんね、今は海を満喫しなくちゃ!」
 顔の前で拳を握り、勇ましくも輝かしく笑顔を湛えるるり。
 さあ何をして遊んでくれようかという意志が漲っていた。
「その意気ですわ、るり様」
 ガッツポーズで応援する美龍。挟まる胸。いや、そんな所ばかり見てはいけない。

 二人の様子を横から見ていた蓮は、ほんの小さく溜息をついた。
「私が、あのくらいなら……」
 呟いて、下を向く。ほんの少しだけ顔を赤らめた。
「どうしたですかっ?」
「っ……」
 急に声をかけられて背筋を伸ばす蓮。瞬間的に目を反らした。
 くいっと小首を傾げる蜜柑子。
「それより……」
 つつっと視線を蜜柑子に移す。正確には蜜柑子の水着……そこにプリントされたマスコットに移した。
 視線に気づいて蜜柑子が胸を張る。
「お洒落でしょー! きゃー! もう、見てくださいっ! マスコットも可愛いのですよっ!」
 蜜柑子は水のなかをぱしゃぱしゃ跳ねた。元気だなあ。
「蓮さんはスク水ですか? それも良いですねー!」
 更にはしゃぐ蜜柑子から再び目を逸らし、恥かしそうに両腕で水着を隠す蓮。
 そしてちゃぷんと水に浸かった。
「おーい、皆!」
 浜の方から声がする。見ると大河が何やら丸っこいものを抱えて手を振っていた。
「うん、揃ってんな。これからスイカ割りをしようと思ってるんだが、一緒にどうだ」
「スイカ!?」
 全力で大河の方を見るるり。育ち盛りなのである。
「スイカ……」
 なぜか美龍の方を見る蓮。育ち盛り、なのである。
 そんな中、単独でもテンションの高い蜜柑子は水をばしゃばしゃ弾きながら身悶えた。
「いいですねスイカ割り! きゃー! 皆もやりましょー! て、あれ?」
「おいしそう」
 そう呟いてスイカをキラキラ光る目で凝視するるり。
「ら、来年には大きくなってるわ」
 そう呟いて『頑張れ自分』とでも言いたげな様子で拳を握る蓮。
 蜜柑子は彼女等を交互に見て、「あれえ?」と小首を傾げた。

●フィッシングの本格
 大河は一人で釣りをしている。
 彼が持ち込んだスイカやビーチボールで皆と遊び、本当ならここでイカ焼きでも食べたい所だったが残念ながら浜茶屋は店仕舞をしていて……。
 仕方が無いので持参した釣竿でこうして釣りをしているのである。
 浜茶屋め。根性出さんかい。
 そんなことを思っていると、背後から誰かの足音が聞こえた。
「釣りをしてるんですか?」
 声をかけてきたのはるりだった。彼女一人だけらしい。
「まあな、日向は休憩か?」
「はい、と言うか食休みです」
 満足した顔で口元を拭うるり。
「あのスイカは美味しくいただきました」
「ああ、いい食べっぷりだったな」
 大河は思う。あんなに美味しそうにスイカを食べる女の子は初めて見たかもしれない。
「ところで、釣れてますか?」
 遠い目をしていたるりが、思いついたようにそう尋ねた。
 大河はここで「当たり前ぇだ」と言って魚の山を見せたかったのだが……惜しむべき事に、彼は釣りが下手なのであった。よって収穫は無い。
 どうしよう。ここで『下手だから釣れてねえよ』と言うのは恥だ。
 大河はぴったり一秒考えた末、何とか誤魔化すことに決めた。
「いや、これから釣るんだ」
「そうですか。頑張って下さいね」
 るりはにっこりと笑って、その場を後にする。
 一人になる大河。
「……よし」
 釣竿を袋に入れ、Tシャツを脱ぎ、軽く準備運動をした後……
「待ってろよ魚ども!」
 海に向かって飛び込んだ。

●夏の幸、海の幸
 泳いで遊んではしゃいではしゃいで、時間は既に夕暮れ時。
 仕上げは浜でのバーベキュー。
 拓也と大河の収穫物と、他の皆が持ち寄った品がメニューである。
「うむ、やはり採れたては違うな! なあ獅子戸!」
「ああそうだな! 畜生!」
 ヤケ食いする大河の背中を拓也が豪快に笑いながら叩いている。
 実はこの大河、竿で釣る代わりに自ら海に飛び込んで沢山の魚介類をゲットして来たのだが……。
「まさか海底でおまえに遭遇するたあな! 驚いたぜ!」
 豪快に笑いながらやはり背中を叩き続ける拓也。
 大河はまぐりと魚を頬張って、まあそれなりに楽しかったけどな、と呟いた。
「わああ☆」
 歓声を上げて目をキラキラさせているのは他でもない、るりである。
 だって育ち盛りだもん。
「どんどん食えー! 俺と大河で沢山獲って来たからな!」
「有難う御座います獅子戸さん」
 目をキラキラさせるるり。
「ああ気にすんな!」
 大河は既にヤケだが、ちゃっかりイカ焼きは食っていた。
「はー、やっぱり海は良いさ」
「んー、いいですねえ海って」
 香とるりが同時に言って、顔を見合わせて笑い合う。
「是非来年も来たいですわねえ」
 頬に手を当てる美龍。
 採れたての海の幸を堪能して満足そうに言った。
「そうね」
 蓮はそうとだけ答えて焼きたてのソーセージを食んだ。
「……その時は、きっと可愛い水着を着るわ」
 どこか遠くを見て、蓮はそう言った。
 漣の音と笑い声。
 それらが夕暮れの中で交じり合い、空に上って行った。