<高いビルの地縛霊>
マスター:柾木みなと
日焼けした顔の作業着姿の男達が、小豆色の鉄骨の上で工具を片手に作業を行っている。
その様子を屋上から見下ろす一人の男。袖口が膨らんだズボンに地下足袋を履いた姿はとび職のものだが、紫色の皮膚、耳まで裂けた口、吊り上った紅い両眼は、明らかに人間のものではない。腰から伸びた鎖が、まるで命綱のように足元の鉄骨に絡みついている。
男がキッと階下を睨む。
突然唸り声を上げて浮き上がり、一人の作業員の顔を霞める電動ノコギリ。
柱にぶつかり、火花を散らす刃。
悲鳴を上げ、その場を逃げ出す作業員達。
男はそれを見て、顔を歪め、満足そうな笑みを浮かべた。
「皆、高い所は平気?」
長谷川・千春(中学生運命予報士)は、集まった能力者達に、開口一番そう尋ねた。
突然の問いかけに、お互い顔を見合わせる能力者達。それを肯定と受け取ったのか、千春はにこっと微笑む。
「実はね、とっても高ーい所に地縛霊が現れたの。その地縛霊を退治して欲しいんだ」
場所は郊外の埋立地。建設中のビルにて、一人のとび職の青年が事故死し、地縛霊となった。その後、彼が死んだ午後4時前後になると決まって姿を現し、事故を引き起こしているという。その為、遅々として工事は進んでいない状況だというのだ。
「幸いまだ大きな怪我人は出てないけど、このままだとどうなるか判らないよ」
地縛霊は、近寄る相手には手にしたスパナやハンマーで殴りかかる他、離れた相手に対しては、現場に放置された工具を自在に操り、飛ばしてくる能力を持つ。
「確か、白燐蟲使いさんに似たような能力があったよね?」
と千春は首をかしげる。
「地縛霊の強さ自体はそこまでじゃないんだけど、さっきも言ったように、とっても高ーい所に現れるんだ」
千春はそう言うと、メモ帳を広げサラサラと直方体を描き、縦と横に20、高さに30という数字を書き込む。
「これが現場である、工事中のビルだよ。高さは30mの10階立てで、3m毎に幅20cmの鉄骨が格子状に組まれてるの。その周りに作業する為の幅70cmの足場があって、さらにその周りをシートが覆ってるんだよ。広さは、大体20m×20mって所かな?」
そう言って、シャープペンで、トントンとその図形頂上の中央部分を指す。
「でねでね、地縛霊はこのビルの一番てっぺんの真ん中あたりに現れるの。足場の所に作業用階段があるから、上るのは難しく無い思うよ」
高所で、不安定な足場での戦いとなる。転落しないよう、それなりの工夫が必要だろう。
「皆に今度行って貰うのは、次の工事お休みの日。新興開発地帯、って言うの? 周りは似たような工事現場だったり空き地だったりでだーれも居ないから、存分にドンパチやって構わないからね」
そうは言うものの、不安を隠せない能力者達は、気難しい顔で眉を寄せ、メモ帳を見つめる。
「大丈夫。皆の力を合わせれば、きっと何とかなるよ!」
千春はそう言ってウィンクをし、戦いに向かう彼等を勇気付けるのであった。
<参加キャラクターリスト>
このシナリオに参加しているキャラクターは下記の8名です。
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