海に潜むモノと海水浴

<海に潜むモノと海水浴>

マスター:東城エリ


「皆さん、夏といえば海水浴ですよね。今回、向かっていただく場所は、とある海水浴場なんです」
 小会議室に集まったメンバーを見渡して、藤崎・志穂(高校生運命予報士)はにこっと、はにかんだ笑みを浮かべた。
「あ、今回はそう深刻に考えて頂かなくても大丈夫です。被害はまだ出ていないので、未然に防ぐ為に、海水浴場に近づいて来ている、鮫のリビングデッドを退治をお願いしたいのです」
 志穂はそういって、小さなメモを開いた。
「海水浴場は今の季節は人が多いですが、海浜の清掃という名目で封鎖していますので、その点の心配はありません。海を独占できますね」
 そういって、志穂はちょっと羨ましそうにメンバーを見やった。
「鮫のリビングデッドは海水浴場の砂浜に近づいて来ています。この暑さでかなり腐敗しているので、知性はほとんど残っていません。でも、侵入者が入ってくると、すぐに本能で反応して排除しようと襲ってきます。鮫のリビングデッドの最接近時間は昼に近い時間ですから、現れるまでは鮫を警戒しつつ、普通に海水浴を楽しんで構わないと思います」
 そうして、ここからが本題だとばかりに志穂はメモを見ながら話し始める。
「パラソルやレジャーシート、クーラーボックス、浮き輪、ビニールボート、用意するのに大変そうなものは海水浴場で使える『レンタル引き換え券』がちょうど手に入ったので、折角なので使って楽しんで来て下さい。あ、水着は各自で用意お願いしますね。スクール水着でもいいと思いますけど、せっかくの海水浴ですから」
 志穂は少しトーンを落とすと、真摯な口調でいった。
「能力者にとっては何でもない相手ですけれど、一般の人達にとっては十分脅威になる存在ですから、皆さん、失敗しないように頑張って下さいね」
 志穂は何か伝え損ねていることがないか、首を傾げていたが、ぽんっと手を合わせた。

「それと、天気がとても良い一日なので、陽に焼けすぎないように気をつけて下さいね……だって、日焼けしちゃうとひりひりして、夜も眠れなくなっちゃうんですよっ」


<参加キャラクターリスト>

このシナリオに参加しているキャラクターは下記の8名です。

●参加キャラクター名
エアハルト・シェーデル(中学生ゾンビハンター・b06680)
エルティア・シェフィールド(高校生ファイアフォックス・b00501)
オスカル・オニガシラ(高校生ゾンビハンター・b01765)
海育・彩乃(高校生青龍拳士・b05559)
結音・幸(中学生ファイアフォックス・b04204)
皇・真弥(高校生魔剣士・b01795)
日向・奈緒(高校生魔剣士・b03492)
宝華・紅玉(高校生フリッカースペード・b04887)




<リプレイ>


●真夏の太陽
「やっと着きましたぁ〜」
 そういって、いちばん後ろを歩いていた結音・幸(中学生ファイアフォックス・b04204)は、砂浜に敷いたレジャーシートの上に荷物を乗せた。
 海水浴場に到着したメンバーは周囲を見渡し、海水浴客が居ることに気付く。午前中は遊泳禁止と監視員がアナウンスしているおかげか、海で泳いでいる者はいなかったが、波打ち際には子供達が待ちきれずに水遊びをし、砂浜ではビーチバレーをしている。陽光の下で元気に遊ぶ子供達とは対照的に、清掃終了までのあいだ、海の家でゆっくりと身体を休めている大人達の姿が見えた。
「これでは大っぴらに作戦を遂行するわけにはいかないな。ま、鮫のリビングデッドと戦うのは海の中なワケだから、人の少ない場所を探せば問題ないだろう」
 皇・真弥(高校生魔剣士・b01795)は、海水浴客を見渡していった。
「彩乃は海の家でボート借りてきたの。砂浜に出して貰ってあるから、移動しましょ」

 『レンタル引き換え券』を使い、ボートを借りてきた海育・彩乃(高校生青龍拳士・b05559)はメンバーを案内するため先頭を歩き始める。
「海水浴場の端の方に網が落ちていたわ。一緒にボートに入れていたわ。古くて穴が開いているから使えないと、この辺りの漁師の方が捨てていった物みたいだけど……」
「スケルトンっ! 余と一緒に来るがよい! イグニッション!!」
 宝華・紅玉(高校生フリッカースペード・b04887)は、横を突っ切って海へと突っ込んで行く、オスカル・オニガシラ(高校生ゾンビハンター・b01765)の姿を見て遠い目をした。
 砂浜にいる監視員は、オスカルのあまりの姿に目を見開いたが、すぐに目を背けると、何も見なかったと首を左右に振った。
「……俺は何も見なかった。うん、見なかった。あんな海水浴客が居る筈がないんだ」

 あまりにも気が遠くなる状況から目を逸らすメンバー。
「これが世界の常識だよね……」
 監視員の反応を見ていたエアハルト・シェーデル(中学生ゾンビハンター・b06680)は溜息をつき、力無くつぶやく。
「世界結界の効果……という事にしておいてあげましょう。とりあえず」
 エルティア・シェフィールド(高校生ファイアフォックス・b00501)は、エアハルトの言葉にしみじみと同意した。
「ある意味、ゴーストより強烈ですから」
 日向・奈緒(高校生魔剣士・b03492)は銀色と白色が青い海の中に色を添えているのを、眩しそうに手をかざし見る。
「のどかといった方が良いのだろうか……、アレは」
「でも〜、オスカルさんのお陰で、遊泳禁止区域にスムーズにいけそうですよ〜」
 幸が監視員の目が逸れているのを指摘した。
「とはいえ、砂浜には人がいるからな。砂浜に鮫のリビングデッドを引き揚げるのは無理だろう」
 真弥が周りの状況を指摘する。
「それなら、遊泳禁止区域内にある岩場がいいんじゃない?」
 おびき寄せるのに丁度良い場所を探していたのか、彩乃が指をさした。

●捕獲作戦開始
「予定とは違うけれど、海が深くなっている分、こっちの方が戦いやすいかもね」
 エルティアは鮫を陸上に引き上げる時のことを考え、柔軟な考えを述べる。
「平らな所がいいですね」
 幸は岩場に転がっている石を出来るだけ遠くへと避けていた。戦いの最中に転倒でもしたら大変だと思ったからだ。
 暫くの間、のどかな時間が過ぎたのもつかの間、遊泳禁止区域内にオスカルの声が響き渡る。
「鮫が来たぜーーーーー!!!!」
 元気な声とは裏腹にかなり切羽詰まった勢いで、岩場へと猛スピードで泳いでくる。後ろには鮫のリビングデッドからオスカルを守ろうとしているスケルトンがついている。
「いくわよぉ! イグニッション!」
 オスカルが岩場に向かったのを確認すると、ボートで追い込む組の彩乃が鮫のリビングデッドに網を投げつけた。鮫のリビングデッドは獲物を追っている後ろから網を投げられたので、避けることが出来ずに網に掛かる。腐敗して骨が飛び出ているのが幸いしたのだろう、骨が網に引っかかり、身動きできない鮫のリビングデッドを岩場へと誘導することが出来た。
 ボートから下り、岩場に鮫を引き揚げる。鮫のリビングデッドは激しく抵抗するが、海とは違い岩場では素早い動きは出来なかった。だからといって油断はせずに、海へと逃げられないように十分に注意する。
「イグニッション! 俺の剣を受けろ!」
 真弥が長剣を横凪に払い、白燐拡散弾を撃つ。真弥から解き放たれた白燐蟲が鮫のリビングデッドに着弾。白光を発し、ダメージを与える。
「に、匂いますわ……」
 腐敗した匂いに顔をしかめ、マスクがあれば……と思いながら、奈緒は長剣を手に攻撃する。
「やられるのは、自業自得……!」
 エアハルトはハンマーを両手で持ち、ロケットスマッシュを撃ち出した。ハンマーのロケット噴射が武器を加速させ、鮫のリビングデッドの腐敗した身体の一部を吹き飛ばす。
「鮫っておいしいんだけどねぇ……。腐ってるんじゃ仕方ないわ!」
 彩乃の持つ武術短棍から撃ち出されたフレイムキャノンが、鮫のリビングデッドの全身を包み、炎のダメージを与える。
 鮫のリビングデッドは、攻撃によって腐敗した身体が崩れ落ちるのを構わずに、真弥たちの方へと飛びかかる。腐敗しているとはいえ、3メートルに及ぶ程の巨体だ。上に乗られたら逃げ出すのに苦労するだろう。
 平らな岩場のお陰で転ぶことなく避けると、鮫のリビングデッドに攻撃をしたのはギターを手にした紅玉のブラストヴォイスだった。
 背後を攻撃され、鮫のリビングデッドは怒りを漲らせ紅玉の方へと方向転換する。
 だが、その行動が鮫のリビングデッドにとって、命取りになった。
「砂浜の安全の為に倒します〜……」
 幸は詠唱ガトリングガンを鮫のリビングデッドに照準を合わせ、フレイムキャノンを撃ち出す。
「フレイムキャノン、ブッ放しまぁ〜す☆」
 トドメだといわんばかりに、エルティアの詠唱ガトリングガンの回転動力炉から、キィン鋭い音を放つ。撃ち出されたフレイムキャノンが、鮫のリビングデッドを炎で包み込んだ。
 腐敗した身体の大半は焼け溶け、白い骨がむき出しになる。
 動かぬ死体になったのを確認すると、エアハルトはロケットスマッシュで死体を粉々に吹き飛ばした。
「腐乱した死体を置いておくのは、さすがに匂うからね……」
 死体処理をしていたエアハルトの後ろの岩場から、ざばあぁっと音を立てて海から出てきたのは、オスカルのスケルトンだ。
「オスカルは?」
 喋らないスケルトンに思わず聞く。そういえば戦闘中、オスカルの姿が無かったな、と今更ながらに気付いたのだ。
「余はここだぁぁ〜!!!」
 奈緒が声のした所を覗き込むと、岩場で倒れ込み、大の字になっているオスカルの姿だった。
 と、そこにお昼の時刻を知らせるサイレンの音が、うーうーと砂浜の方から聞こえてくる。
 そしてサイレンに引き続いて、
「大変長らくお待たせ致しました。遊泳が出来るようになりました」
 アナウンスの声が聞こえた。
「確かに予定時間だ」
 真弥が防水加工の施された腕時計を見て確認する。
「お腹空いたよ」
 エアハルトが空腹を訴えているお腹を押さえいう。
「もうお昼だから、遊ぶ前に海の家で焼きそば食べたいねぇ」
 彩乃がエアハルトに同意して、さっそく浜辺に戻ろうとメンバーを促した。
「はい〜、行きましょう」

●海水浴
 海水浴するにも、オスカルのアレは他の海水浴客を怖がらせてしまうということで、メンバー一致で水着をレンタルしてきて、着替えて貰うことにした。
 当のオスカルは、ごく普通の水着に着替えたので、不服そうな表情をしている。
「ちゃんと似合ってるんだから、いいじゃない」
 水着を選んできたエルティアが宥める。
「頂きます。ん、美味しい……」
 パラソルの日陰で快適空間を作り出しているエアハルトは、サングラスに黒いつばの広い帽子を被り、スクール水着に黒いコートを着て、陽光からの被害を完全シャットアウトだ。さっきまでは戦闘中に効果の無くなったUVクリームを万遍なく塗っていた。一通り用意が終わった後は、手持ちのバッグから差し入れに貰った食べ物をレジャーシートの上に広げ、行儀良く両手を合わせた後、美味しく頂いている。
 陽の光を大敵にする者もいれば、元気に魅力的な肌を見せる者もいる。
「新調した水着も、いちばん見て欲しい人が居なければ意味が無いよね」
 あぁ、と溜息をつくエルティアは、焼きそばをすっかり食べ終わり、次はと、少し溶け出したいちご味のかき氷にストロースプーンをさくりと差し込み、冷たい氷を赤い舌の上に乗せた。
「あぁ〜ん」
 エルティアは水色のワンピースタイプの水着にTシャツを着て、パレオを巻いている。その間から覗くパーフェクトボディに男性海水浴客の目を釘付けにしていたが、本人はにっこり微笑んで、丁寧にお帰り頂いていた。時折、ばしゃーんと音が鳴っていたのはご愛敬だ。
 黒いチューブトップ水着にドビーストライプのパンツを身につけ、セクシー寄りになりそうな所をスポーティなイメージを見せている彩乃の手にはたこ焼き。大だこ!と書いてあった売り文句に乗せられて買ってみたといった様子だ。
「なかなか良い焼き具合やわぁ」
 焼き具合で、たこ焼きとオスカルさんのどちらを指したのでしょう〜と、いくぶん天然ボケ的な思考をしていたのは幸だ。
 オスカルはサンオイルを塗り込んで、日焼け態勢万端だ。こう言う時は悪戯をするのがセオリーだが、生憎と? そういったことを考えるメンバーでは無かったのはオスカルに取って良かったに違いない。
 幸は大きなリボンが可愛らしい水着に、ふわふわな素材のパレオを巻いている。手には真弥からの差し入れの缶ジュースだ。食事も終わり、次は何をして遊びましょうと思案中だった。
「もうお腹いっぱいです〜」
 焼きそばも焼きイカもメロン味のかき氷もすっかり平らげた真弥は、すっくと立ち上がる。黒いトランクスタイプの水着にTシャツを着ていた真弥だが、Tシャツを脱ぐと、元気よくメンバーを振り返りいった。
「よし、泳ぐぞー!」
「はぁ〜い!」
 幸は手を挙げて、真弥についていく。
「あ、私もいきます」
 食べた後の容器をきっちりと袋に纏めていた奈緒は立ち上がり、パレオの結び目を括りなおした。ホルターネックタイプの南国植物模様の水着にパレオを身に纏った奈緒は実年齢に比べ大人に見せている。
「いってらっしゃい」
 三角ビキニにスカートを身につけた紅玉は、レモン味のかき氷を食べながら見送った。

 エルティアと彩乃も真弥の後を追う。手には浮き輪だ。海でのんびり浮かぶのも良いだろう。

 そして暫く。
 遊び疲れてパラソルの下でくつろぎ、スポーツドリンクを飲んでいた幸は、海水浴客の姿がまばらになりつつあるのに気がついた。
「あ、そろそろ肌寒くなってきましたね〜」
 幸が少し冷たさを感じた腕をさする。
 どれくらい遊んだだろう。時々、休憩を入れては居たが、まだまだ遊び足りない感じがした。だが、それくらいが良いのかも知れなかった。また来年、来ようという気になるから。
「そろそろ帰るか」
 帰り支度を終え、海水浴場から引き上げる人々の姿をみて真弥がいう。
「そうですわね」

 そして、十分に海を満喫した彼らは、夏の楽しい思い出と共に帰途についたのだった。