<喰らう部屋>
マスター:高橋一希
「お母さん……お腹空いた……」
「お父さんが帰ってくるまで、ガマンしましょう、ね?」
「でも、もう何日もご飯食べてないよ……力が入らないよ……」
「もう少し、もう少しガマンすればお父さんは帰ってくるわ……」
「……で、その母子は、家中のお金を持ち出した父親を待ちわびたまま、餓死してしまったらしいの」
長谷川・千春(中学生運命予報士)は、手にもったメモ帳をめくりながら、唐突にそんな話をした。
しかし、彼ら能力者達が集められて、こういった話をされたという事は……。
「そう。ゴーストの事件が起こっているの。あのね、とある町のアパートには4号室がないの。何回数えても、普段は3号室の次は5号室なんだって。でもね、希に4号室が現れる事があるらしくて、その4号室を開けてしまったものは……」
彼女は両手を大きく開き、がばりと閉じる。
「こう、アパートに『食べられちゃう』んだって」
その今は存在しないはずの4号室に住んでいたといわれるのは、先ほど話された親子。
いや、住んでいた、というのは適切ではない。今も『住んでいる』のだ。
「さっきの話の母子はね、地縛霊になって、そのアパートの4号室に住んでるの。餓死したからなのか、凄く食べる事に執着しているみたい。放っておくと、部屋を開けてしまった人がどんどん『食べられ』ちゃうよ」
千春の話によると、4号室は特殊な空間になっており、本来の部屋の広さを超えて結構な広さを持っているという。
つまり、詠唱兵器を振り回しても問題はないという事だ。
地縛霊は、その痩せ細った両腕からは信じられないほどの力で相手を捕縛した後、頭の部分がぱくりと割れ、それ自体を巨大な捕食口にして噛み付いてくる。
また、捕縛が上手くいかない場合は両手で引っかき、ひるんだところを見計らい、噛み付こうとしてくるとの事だ。
……そういえば、先ほどの話の中に出てきた父親はどうなったのだろうか?
その問いに千春は軽く首を振る。
「完全に行方不明みたい……だからね、その母子と、これまでに食べられた人の弔いの意味を込めて、地縛霊を倒して」
彼女らしくない、沈鬱な表情。
自分でもそれに気づいたのか、千春は笑顔を作る。
「大丈夫、皆ならきっと何とかできるよ!」
そう言うと、彼女は照れを隠すかのように手近にあったチョコレートを口に含んだ。
<参加キャラクターリスト>
このシナリオに参加しているキャラクターは下記の8名です。
|