<沼の食いしん坊>
マスター:九部明
山奥にひっそりと存在するその沼は、濁った緑の水面に、何とかその青年の輪郭だけを映し出した。
青年は釣りが趣味だった。全国様々な場所に足を運んで、水面に糸を垂れるのが休日の過ごし方だった。
だが、その沼に投げ入れた釣り針がその男の人生を終わらせた。なぜならその釣り針に食いついたのはその沼に住む妖獣だったのだ。
放課後を知らせる鐘が鳴ってからさらに数時間が過ぎた学園。
多くのクラブも活動を終了し、校内に残っている生徒がかなり少なくなった頃、指定された美術室に集まってきた能力者達は、皆、怪訝な顔をしていた。
美術室とは文字通り芸術活動、特に、絵画や彫刻などを作成する場所である。だが、いまその美術室にずらずらと釣竿が並べられている。
「そろそろ始めたい。今回の事件の説明をする団十郎だ」
王子・団十郎(高校生運命予報士)は大柄な身体を折って挨拶をすると、ぽりぽりと頭を掻いた。
「皆、釣竿が気になっているようだが、もちろんこれは今回の依頼に関係がある。今回のゴーストは、水中にいる錦鯉をベースにした妖獣だ」
団十郎は居住まいを正すと表情を引き締める。。
「生息しているのは人里離れた山中の濁りきった沼だ。幸い普段は近づく人もいないため、新たな犠牲者は出ていないが、もちろん放置は出来ない」
沼のある山までの交通手段などプリントした紙を配りながら、団十郎は続ける。
「妖獣は水中を活動の拠点としている体長3mほどのやつだ。そして、釣り針を引っ張って人間を水に引き込む事を覚えている。今回はこのことを考慮して、釣竿を用意してもらったんだ」
集まっていた能力者の何人かが納得した表情を見せたので、力強く団十郎は頷いた。
そうなのだ、妖獣が釣り針に食いついてくるのならば、そのまま釣り上げてしまえば、地上で戦う事が出来る。犠牲になった青年には不可能でも、能力者ならば、3mの妖獣錦鯉を吊り上げる事は不可能ではない。もちろんそれなりの技術が必要かもしれないが。
「相手は妖獣なので鯉そのもの姿ではない。今回の場合は尾びれが蟹の爪となっているから、釣り上げた後も尾びれ側から接近して挟まれるような事はないようにな。他には水鉄砲を口から撃ち出す。ただこちらは、陸に上がれば水が補給できないから一発限りだろう」
能力者に釣竿を配り終わると団十郎は一言だけ付け加える。
「釣竿はレンタルだ。折らずに持って帰って欲しい」
<参加キャラクターリスト>
このシナリオに参加しているキャラクターは下記の8名です。
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