<忘れられた少女>
マスター:雪月花
「出して……出してよぉ……」
薄闇に染まりゆく校舎。トイレの個室から聞こえる少女のすすり泣く声を聞く者は、誰もいない。
かつて、三階のトイレで苛められていた女の子が、死後幽霊になって個室に入った子供を道連れにしてしまう……どこの学校でもあるような怪談の噂が、ここにもあった。
内気な少女は、噂を聞いて彼女を脅かそうとした、苛めっ子の集団に閉じ込められてしまったのだ。
どんなに扉を叩いても、懇願しても出しては貰えなかった。
下校を促す放送は随分前に流れ、皆とっくに帰ってしまったのだろう。周囲は既に薄暗く、静まり返っている。
少女は震えながら蹲った。もう、いつ来るとも知れない助けを待つしかない。
だが、助けは永遠に来なかった。
本当に存在していた地縛霊に、少女は取り殺されてしまったのだ。
途端、皆まるで忘れてしまったように誰も彼女を気に掛けなくなった。
少女を苛めていた子供達は勿論、教師や家族までも。
全て、自分を閉じ込めた子供達のせいだ。
そう憎悪の念を滾らせた少女の残留思念は、彼らへの復讐に動き出そうとしていた。
「暑い中、集まって下さってありがとうございます」
緑揺れる涼しげな木陰で、藤崎・志穂(高校生運命予報士)は能力者達に頭を下げた。
そして、今回向かうべき小学校の名前と場所を伝える。
「この学校の三階のトイレに地縛霊がいます。それが、子供達の間でお化けが出ると噂になり、苛めっ子のグループに閉じ込められた女の子が、取り殺されてしまったんです」
既に起きてしまった悲惨な事件に、志穂は悲しげに項垂れる。
「彼らを恨んだ女の子の残留思念が地縛霊と一体化して、今度はその子達を道連れにしようとしています。今日、グループのリーダー格の子が大事なアクセサリーを学校に忘れてしまって、お友達を誘って夜の学校に忍び込もうとしているのが視えました。彼らを守って地縛霊を倒すのが、今回の依頼になります」
志穂は、殆どの子供は怖くて途中で玄関へ引き返して来るので見つけるのは簡単だろうと話した。だが、忘れ物をした当人はそれを取り戻す為にひとりで教室へ向かおうとしているとも。
「急いで後を追えば、その子を助けることも出来る筈です。地縛霊は、聞いた人達を動けなくさせる金切り声を上げますが、能力者の方なら振り払える可能性が高いと思います」
志穂は、言葉を切って能力者達を真摯に見据えた。
「苛めはいけないことです。でも、復讐は悲しい連鎖しか生みません……どうか、子供達を助けてあげて下さい」
<参加キャラクターリスト>
このシナリオに参加しているキャラクターは下記の8名です。
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