<暴走妖獣を倒せ>
マスター:川原鴫
山間の渓谷に、夜間鈍い音が響いていた。
繰り返し、繰り返し。
何度となく繰り返されたその音は軋むような音に変わり、地響きを最後に静かになった。
翌日住民が見つけたのは、地元でも一番と言われた大木が大人の背丈位の位置で無惨に折れている姿だった。
「おー、こっちだこっち」
顔に似合わずというと本人は落ち込むかもしれないが、王子・団十郎(高校生運命予報士)という男は存外気さくな男であった。呼び出しに指定された時間が昼休み、場所が屋外の体育倉庫という『暑い・臭い・暗い』と三拍子揃った悪環境でなければ印象はもっと良かったかも知れない。
「悪いな、こんな所に呼び出して」
そう前置きしてから、団十郎はゴースト事件の話を始めた。
「今回は猪の妖獣を退治して欲しい」
そう言って団十郎が指定したのは県内でもあまり知名度が高くない、ローカル線の駅の一つだった。山に囲まれた自然の多い場所と言えば聞こえは良いが、過疎が進んで人気の少ない地域である。
「この妖獣は痛みのせいで我を失っている状態だな。闇雲に頭を柱状の物に打ちつけて倒して回っている」
森の中まで確認したわけではないので被害の実態は表に出ていないが、それこそ大木はほとんどうち倒されている状態に近い。
「木で済んでいるうちは良かったのかもしれんな。化け猪が次の目標にしようとしているのは、鉄橋の橋桁だ。上にはローカル線の線路が走っている。つまり、橋桁が落ちれば線路は寸断。最悪、電車が橋から落ちて乗員乗客全員が渓谷へ落ちる」
さすがに電車が動いている時間には妖獣が活動はしないようだが、と団十郎は若干顔を歪ませて口に乗せた。
「妖獣の外見はさっきも言った通り猪だ。ただ、視たところ体高2メートル、体長5メートルってとこだ。デカい割に動きは重くない。元々手負いの猛獣みたいなもんで厄介なんだが、突進の衝撃は更にすさまじいから注意してくれ」
文字通りの化け物サイズである。突進の直撃を食らえば大ダメージは必至だろう。
「鉄橋を倒しにくるのは4日後の夜10時以降だ。街灯なんてもんはないから明かりは何か用意しておけよ。妖獣は渓谷を山側から下ってくるから待ち伏せすればいい。地形上、猪が現れる場所は一点に絞られる」
邪魔をするとわかれば、猪もこちらを無視することはないだろうさと続けて、団十郎は一旦口を閉ざした。
「鉄橋が壊れれば、予算問題で廃線にもなりかねん。……甘く見てやられないようにな」
最後にそう言いおいて、団十郎はそれでなくとも細い目を更に細めたのだった。
<参加キャラクターリスト>
このシナリオに参加しているキャラクターは下記の8名です。
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