<妖獣は暁に引き裂く>
マスター:縞させら
朝の光の中で、深い眠りに落ちていた大きな犬が、ぴくりと耳を動かし頭を上げる。
犬はいつものように、主人の家である古い農家の玄関脇で休んでいた。だが今日は、家の裏手から響く音に、起こされてしまったのだろう。耳を動かしながら、のそりと起き上がる。
聞こえる物音にうなり声をあげながら、犬は家の裏手に回る。
やがて、うなりながら音に向かって進む犬の前に、巨大な生物が現れる。生物の前の鶏小屋に張られた金網は引き裂かれ、あたりに鳥の羽が散っている。何かを食べているような赤い毛皮に包まれた生物は、犬の方を振り向いた。
生物の肩と横腹から生える4本の腕。横腹から生える腕には、1羽の鶏が握られている。空いている肩から生える腕がのばされ、素早くよけようとしたがかなわなかった。
「きゃんっ」
哀しげな声が一つ、あたりに響く。けれどそれは、深い眠りに落ちる人間たちを起こすほどのものではなかった。
放課後の調理実習室では、藤崎・志穂(高校生運命予報士)が能力者たちを待っていた。次第に集まりつつある能力者たちは、彼女と同じテーブルについてゆく。
「皆さん、集まって下さって、ありがとうございます」
彼らが席についたのを確認すると、志穂は童顔がさらに幼く見える笑顔を浮かべる。
「今の時期は、とっても牛乳がおいしいですよね。そんなおいしい牛乳を出してくれる牛さんがいる村に、妖獣が出るんです」
手にする牛乳瓶のふたを開けながら、志穂は妖獣について話し始める。
「妖獣は、よく晴れた朝の早い時間に山から降りてきて、ペットや家畜を襲っています。もともと妖獣は、山をえさ場にしていました。ですが、その山のえさが少なくなったため、山から降りてくるようになったのです。……山を降りてきながら、ペットや家畜を食べています」
次に妖獣が襲うのは、ある民家の側にある牛小屋です。牛小屋では最近子牛が生まれて、襲うとすると逃げられない子牛から襲われるでしょう。と付け加え、志穂は能力者たちの反応を伺う。
能力者たちは、真剣に志穂の話を聞いている。
「形や大きさは、サルによく似ていて、2メートルほどです。ふつうは、4本の手と両足をついた6本足で移動します。6本足のせいか、凄く動きが早いです」
6本足なんて虫みたいですけど、などという感想を述べ、志穂はさらに言葉を続ける。
「ここが肝心なのですが、追いつめられると2本足で立ち上がって、空いている4本の手で引っ掻き攻撃をしてきます。引っ掻き攻撃は、簡単に金網を引き裂くほどの力なので、油断しないで下さい。腕も体のわりに長いので、よく間合いを測らないと危険です」
笑顔とともに紡がれる言葉は、能力者を不安にさせるようなものばかりだった。
間合いが広いうえ、動きも素早くては、逃げ回られたら倒しにくい。ざわつく能力者たちを見回し、志穂は可愛らしく首を傾げる。
「妖獣は、とてもおなかを空かせています。火と大きな音も苦手で、火や大きな音から逃げます。これらは、妖獣を倒す時に使えると思いますよ」
そう言い終わると、志穂は手にした牛乳を一気に飲み干す。
空の瓶を叩き付けるようにテーブルに置き、そうそうと思い出したように言葉を付け加える。
「妖獣が出る所には、民家もあります。このままだと人も襲われるかもしれないので、素早い対応が必要です。そして、最後ですが……」
次に何を言うのかと、能力者たちは身構えたが。
「皆さんも、怪我をしないように気をつけて下さいね」
そういいながら志穂は、ぺこりと頭を下げた。
<参加キャラクターリスト>
このシナリオに参加しているキャラクターは下記の8名です。
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