●悲しい侘しいクリスマスイヴ
クリスマス・イヴともなれば、銀誓館学園の中もクリスマス一色。
友人同士で、あるいは恋人同士で。共に楽しい時間を過ごそうと、学園内を行き交う生徒達。
そんな、銀誓館学園の一角で……やさぐれる男女が2人。
芝生の上に座り込んだ、恭平と綾のことである。
カップルが近くを通るたび、物凄い形相で睨みつける2人の様子に、他の生徒達は出来るだけ彼らを遠巻きにして、足早に目的の場所へ去っていく。
「クリスマス……ウゼーな」
「……ああ」
ちっ、と呟く綾の言葉に頷く恭平。彼のその短い言葉には、深い感情がこもっている。
無理も無い。何故なら彼は、よりにもよってクリスマス・イヴであるこの日に、失恋が確定し……自棄になって、メイド服なんて着込んじゃったくらいなのだから。
そりゃあもう、見事なやさぐれっぷりである。
「ところで……わざわざこんなイヴに、フラれたんだって?」
「……うるせーよ、ぐすっ」
綾の言葉に、じわっと涙を滲ませる恭平。
――と、その時。
「やだ、あの人イヴにフラれたんだって!」
「かわいそー……ってゆーか、マヌケー」
「寂しい男よねー」
ひそひそっ。
通りすがりの女の子グループの囁く言葉が聞こえる。……内緒話ってのは案外、周囲に聞こえちゃうんだよね。
「うるせぇよ! こっちみんな!!」
ぎろっと叫べば、びくっと立ち去っていく女の子達。
「……まぁ、元気出せ。辛かったら俺の胸で泣いていいから……な?」
「綾……!」
そんな恭平に、綾は慰めの言葉をかける。その気遣いに、思わず感動の涙を浮かべる恭平だが。
「ただし、俺の胸で泣いてる間は、ずっとボディーブロー食らわすからな」
「何故!?」
しれっと付け加えた綾の言葉に、感動の涙は一気に醒める。むしろ凍りつく。
「当たり前だ。乙女の胸に顔を埋めて泣くという好意が、無傷で出来ると思うな!」
これでもずいぶん譲歩してやってんだぞ!? ……なんて綾が叫び返す。
ある意味、ごもっともといえば、ごもっとも。
「ち……ちくしょう……っ!」
ぬか喜びだった!
失望を露に、また何かの涙に濡れる恭平。
彼は歯軋りしながら立ち上がり、夕日が沈んでいく方角を見ると、魂の限り叫んだ。
「……クリスマスなんて、嫌いだ―――っ!!」
その叫びは周囲に轟き、こだまして。
ひときわ、人々の視線を集める。
「……だから、こっちみんなぁぁぁっ!!」
可哀想なものを見るような視線を、四方八方のカップルから浴びて、恭平はまた叫ぶのだった。
| |