●風邪引くぞ?
待ち合わせは金時計の下。
そう、約束して、絵里は時計の下にやってきていた。
「え、ええっ!?」
思わず驚いてしまう。
何故なら、予想以上の人混みであったから。
クリスマスが非常に混む事を想定していなかった様子。
「どうしよう……柳ちゃん探せられるかな?」
きょろきょろと辺りを見渡す。
柳夜の姿はまだない。
「まだ、来ていないのかな……」
またきょろきょろと見渡しながら、もう一度、柳夜の姿を探し始めた。
いつの間にか雪が降り出した。
イルミネーションの光に照らされた雪は、輝くように綺麗であった。
ちらりと雪を見て、柳夜は少し歩く速度を速めた。
と、待ち合わせの金時計が見えてきた。
それと同時に、絵里の後ろ姿も。
そのとき、柳夜の携帯電話が鳴り出した。
沢山の人が、金時計の側に集まり、通り過ぎていく。
どれだけの人の顔を見ただろう。
柳夜を求めて、探していくうちに、だんだん絵里の胸に不安が募っていく。
もしかしたら、見過ごしてしまったのかもしれない。
もしかしたら、何か大変な事に巻き込まれてしまったのかもしれない。
もしかしたら。
もしかしたら………。
絵里は思わず、自分の携帯電話を手に取った。
そして、いつもの番号に電話する。
しばらく、呼び出し音が鳴り響いた。
『もしもし』
繋がった!
絵里はすぐさま、声をかけた。
「柳ちゃん? 今どこにいるのー?」
突然、絵里の後ろからふわりと何かが掛けられた。
暖かいマフラー。その絵里はそのマフラーに見覚えがあった。
絵里が振り返るよりも早く。
「風邪を引くぞ?」
「柳ちゃん!?」
柳夜の声は電話からではなく、すぐ後ろで響いた。
普段見せない、淡い微笑みと共に……。
雪が降る。
寒い日の夜だったが、絵里はそう感じなかった。
何故なら、首には柳夜から借りた暖かいマフラーと、彼の温もりがあったのだから……。
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