月白・朔耶 & 月白・洸耶

●盆暮れ正月 = 別名:稼ぎ時

 外ではしんしんと雪が降っている。
「うわ、もう夜か? しかも雪も降ってるしっ」
 洸耶は手を休めて、部屋の電気をつけた。
 灯りに照らされ、洸耶が作った破魔矢がたくさん浮かび上がる。
 作らねばならない破魔矢は、まだたくさん残っている。
「くそっ」
 どっかと座り、また黙々と破魔矢作りに励む事にした。
「お疲れさん、調子はどうだ?」
 と、そこへ朔耶が現れた。
 美味しそうなおにぎりと、美味しそうなデコレーションケーキ。
 いや、クリスマスケーキを持って、朔耶は差し入れに来たのだ。
「うが〜! 毎日毎日正月準備なんてもう嫌じゃ〜!!」
 そう答える洸耶に朔耶は苦笑を浮かべた。
「世間じゃ、今日はクリスマスだってのに……何だって俺は、ここで正月準備しているんだか……」
 くうっと涙を拭って、そう続ける洸耶。
「じゃあ、親父達の手伝いに行く?」
 実は今、この二人以外は全員、大掃除をしていた。
 朔耶は家中の家事を担当し、洸耶が年始に向けての準備を担当していた。
「断固断る!」
 面倒で力仕事が多い大掃除をするよりは、ここで年始の準備をしている方がマシだ。
 そう、洸耶は力説した。
 そういう洸耶に朔耶は、くすくすと笑う。
 と、洸耶の側で、ちりんと鈴が鳴った。
「ん?」
 鈴が鳴ったところを覗いてみると。
「にゃーん」
 白い日本猫のチィが鈴にじゃれて遊んでいる。
「こら、お前は邪魔するなっ!」
「なぁ、良い提案があるんだけど、良いか?」
「……何?」
 洸耶はチィから鈴を取り上げ、邪魔にならない場所へと移動させる。
 部屋の隅にはチィだけでなく、黒の狼犬、天狼も静かに眠っていた。
「ちょっと休憩してさ、おにぎりとケーキ食べない? 一人じゃ味気ないしさ」
 その提案に洸耶は頷く。
「そうだな。休憩は大事、だよなっ」
 二人はにっと微笑んで、つかの間の休憩を楽しむ。
「あー破魔矢の次はおみくじだよ。うんざりだなぁ〜」
「家事が終わったら、そっち、手伝おうか?」
「え? いいの? やったっ! 頼むよ、よろしくっ!!」

 クリスマスの夜。
 二人の家では、年始の準備に大忙しであった。




イラストレーター名:にまい