●素直な二人〜繋いだ手の温もり〜
雪がちらつく校庭を、2つの人影が歩いていた。
片方は暁、もう片方は天。
これまでダンスパーティに参加していた2人は、踊り疲れた体を休めに、この場所を訪れたのだ。
しばらく歩いて、休むのに手頃そうな木を見つけると、2人はそこに寄りかかる。
ふう、と一息つけば。吐き出される息は、とても白い。
それぞれ、反対の方を向いて、一緒にいながらも1人で過ごしているかのよう。
だけど。
何気なく動かされた天の指先が、そっと暁の手に触れ……2人の手が、繋がる。
「……さっきの踊りはなんだ。さんざん俺の足を踏んで、下手すぎるにもほどがあるぞ」
その感触に、内心動揺しながらも。暁はそれを隠しながら言う。
「最初に言っただろう? ダンスなんぞしたことがない。しかも、あんなに大勢の前で……」
暁の言葉を気にした風も無く。天はそう苦笑すると、だが……と続ける。
「不思議と、悪くは無かった。いや、違うな。……暁と踊るのは、本当に楽しかった」
呟いてから、自分で自分の言葉に首を振り。そう訂正して微笑む天の姿に、暁の言葉が詰まる。
ただ、初めて自分の名前を呼ばれたというだけで……顔が、赤くなって。
耳まで、真っ赤になって。
それだけじゃなくて、心臓の鼓動が、どくどくと早鐘を打つように早くなっている事までも自覚する。
早く、何か言わなければ。
必死で言葉を探して、紡ごうとして。
「お、俺だって……なんだ、その、た……か……」
天と、その名を呼ぼうとして、どうしても最後まで紡ぐことができない。
「……玖世。お前が俺と踊るには、技術も経験も足りない。だが、何より……あぁ、もう解れ! この馬鹿!!」
結局いつものように、彼の苗字を呼んでしまいながら、暁は苛立ちを隠せない様子で叫ぶ。
まるで、言いたい事をうまく言えない子供が、つい叫んでしまうかのように。
それでも暁は、決して自分の掌を包む天の手を、振り払う事はしない。
「……」
そのまま、赤い顔で俯いてしまった暁の様子に、やれやれといった表情を浮かべながらも。
天は「もう少ししたら、体が冷えてしまわないうちに戻ろうか」と彼女に告げる。
触れた手を、そのまま繋ぎ続けながら……。
2人は、あともう少しだけ、木に寄り添いながら静かな時を過ごすのだった。
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