●Sweet Christmas
「次はこれ、頼むわね!」
「あ、はいっ!!」
今、楓のアルバイト先である喫茶店は大忙しであった。
たくさんのお客が訪れ、ケーキを頼んでいく。
楓に頼まれ、臨時ヘルパーとして入った孤影も、目の回るような忙しさであった。
孤影は楓から渡されたケーキを、お客の元へと運んでいく。
「ありがとう。なんだか忙しそうだけど、頑張ってね」
そうお客に言われて、孤影も笑みを見せる。
通常なら、夜の9時に閉まる店なのだが、今日ばかりは9時に閉められず、最後のお客を見送った頃にはもう、10時半になっていた。
残っている店員は、楓と孤影、そして店のマスターのみとなっていた。
「ふあーーーっ! 終わったぁ〜!!」
そう言って、楓は何も無くなったテーブルの上に突っ伏した。
後片付けも終わった今、自分達の身支度が終われば、すぐにでも帰られるだろう。
楓は身を起こし、エプロン姿の孤影に声をかける。
「ごめんね〜、こんな夜遅くまで手伝わせちゃって。でも、ホント助かったわ」
「これくらいどうって事ないです」
そう言って孤影はにこっと微笑んだ。
せっかくのクリスマスも、あと数時間で終わってしまう。
何かできないものかと楓が思案していたそのとき。
「おーい、神宮寺君。あと霧隠君も」
二人を呼ぶマスターの声が。
楓と孤影は顔を見合わせ、マスターの元へと急いだ。
『ケーキがちょっと余っちゃってね。よかったら食べて行くかい? いやあ、こんなに一人じゃ食べられないしね』
そう店のマスターから渡されたのは、今日のケーキの残り。売れ残りと言っても大勢のお客が来る事を見越して大量に作られた為、殆どの種類が数個ずつ残っていた。
「孤影、一緒に今からクリスマスしない?」
そう楓に提案されて、孤影は嬉しそうに頷いた。
「はい、喜んで」
喫茶店の片隅で、ささやかなクリスマスパーティーが始まる。
色とりどりのケーキがテーブルに置かれた。ケーキだけではない、休憩が取れなかったために食べられなかった夜食のサンドイッチまで置かれていた。
二人っきりだけれど、食べ物は充実している。
エプロン姿で二人はさっそく、一切れずつケーキを選んだ。
「それじゃ、メリークリスマス♪」
コーヒーカップで乾杯する二人。
「メリークリスマス、です」
暖かいコーヒーが体だけでなく、心まで温めているような気がした。
簡単な打ち上げも兼ねたクリスマスパーティーは、夜更けまで行われた。
なお、大量に残っていたケーキの殆どは、甘いもの好きな孤影が食べ尽くしてしまった事も付け加えておく。
こうして、ささやかなクリスマスは、ゆっくりと幕を下ろしたのであった。
| |