●前奏曲〜prelude〜
祷と龍仁は、2人で一緒に、夜の街角を訪れていた。
今夜はクリスマス・イヴ。
街もイルミネーションに彩られ、きらきらときらめいている。
「こっちのお店、可愛いです〜っ。きゃあ、あれ綺麗ですーっ♪」
きょろきょろ見回しながら、祷は楽しそうに声を上げる。どのお店も趣向を凝らしたイルミネーションで飾られ、ついつい目移りしてしまうくらい素敵で。
はしゃいで駆け出す祷の姿に、龍仁は微笑ましそうに笑みを深めて、その背中を追いかける。
「川さん、次あっち見てみませんか♪」
「いいですネェ。行きましょうカ」
楽しそうに笑いながら振り返った祷に、龍仁は勿論だとばかりに頷き返す。
その答えに、また楽しそうに歩き出す祷。
(「なんだか……話せば話すほど、好きな気持ちが強くなっていくみたいですネェ……」)
追いかけながら龍仁は思う。
最初は一目惚れだった。でも、この気持ちは決して、軽いものではない。時が過ぎれば過ぎるだけ、彼女を好きだという気持ちが深まって、抑えきれないほどに膨れあがっていく。
(「答えを、急ぐ気はないですガ……」)
自分の、この想いを伝えるだけ伝えておきたい。
そう龍仁は思うと、彼女にそれを切り出すタイミングを見計らうけれど。
「あ……。あのツリー、とっても綺麗です♪ 川さん、行きましょうっ♪」
楽しそうにはしゃぐ祷を見ていると、つい告げる機会を逸してしまう。
それでも、こうしている今だって気持ちは膨らんでいるのだから……。
「……我愛……」
とうとう、こらえきれなくなって、ぽつりと呟きが零れる。
「……? 今、何か言いました?」
祷の耳に、その呟きは僅かにしか届かなかったようだ。怪訝そうな顔の彼女に、龍仁は、これもまた『タイミング』だろうかと口を開く。
「……あなたが、好きです。と……。始まりは一目惚れでしたガ、やはり、私は祷さんの事が好きみたいですネェ……。今日一日過ごして、それを実感しまシタ。祷さん……私の、恋人になっていただけないでしょうカ?」
「えっ……こっ、こここ告白ですかっ……!?」
見つめる龍仁の言葉に、まばたきして。
何を言われたのか気付いた祷は、混乱を露にしながら問い返す。
だって、まさかそんな事を告げられるだなんて。祷は全く予想していなかったのだから。
「そ、その……。川さんのこと、嫌いじゃないんです。でも……」
祷は、少し俯きながら告げる。
今日2人で過ごしていて、とても楽しかった。不思議だけど、一緒にいると何だかほっとして、どこか懐かしいような気がして……すごく、安心できるような気がした。
でも……それと、これとでは違う。
彼に抱いた好意が、一体どんな好意なのか。彼のことを、1人の異性として、そういう対象として、好意を抱いているのか……今の自分では、すぐには答えを出せなくて。
だから。
「……少しだけ、待っててもらうのって……駄目ですか?」
「いえ、構いませんヨ。お返事は、いつでも構いませんカラ」
見上げる祷に、龍仁はそう微笑み返した。
やがて祷がどんな答えを出し、二人の関係がどう変化するのか……それはまだ、誰も知らない。
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