●聖夜の寸劇〜俺流の励まし方〜
「はぁ……」
梓は1人、どことなく寂しげに体育座りをしながら、夜の河原をぼんやり眺めていた。
「あれ、梓……」
通りすがりに、そんな彼女の姿を見かけた真は、すぐにその理由が想像できた。
なにせ梓とは幼馴染の間柄。長い付き合いは伊達ではない。
「よお梓。こんな所でどうした?」
だから真は、そ知らぬふりで梓へと近付くと、そう梓に問いかけた。
彼女を少しでも励ましたいと考えての事だったが、梓は思案に更けているのか、反応が無い。
どうしたものか?
「……あ、そうだ。梓、これでも食えば元気出るぞー!」
何かを閃いた様子で、真は持っていた箱を開くと、ずいっと彼女の方へ押し出した。
中身はきなこ餅と、きなこ付きみたらし団子の詰め合わせ。
「なっ……!?」
それを見て、ようやく梓の反応があった……と真が思った瞬間。
みるみる梓の顔色が変わり、その肩が震えた。
何故ならば。
……梓はきなこが壮絶に大嫌いだったから。
「こんなの食べられるわけないじゃないのー!」
次の瞬間、発せられた怒声と共に拳が突き出され……真の体が宙を舞った。
ひゅー、どさっ。
ぼたぼたぼたっ。
「真……私がきなこ嫌いなの知ってて……ケンカ売ってるね……?」
吹き飛ばされて仰向けに倒れた真の上に、無残に散るきなこ餅と団子。
そんな彼の姿を睨みつけながら、梓の声が向けられる。
それはこう、鬼というか夜叉というかなんというか。
この世の物とは思えないほどに恐ろしい形相だと、顔を引きつらせて起き上がりながら真は思う。
……知ってはいたけど、本当に本当に、梓はきなこが嫌いなんだと再確認しながら。
なにせ、幼馴染なのだ。彼女のきなこ嫌いっぷりを、知らないはずがない。
「さ、さっきよりは……ちょ、ちょっとは、元気になったみたいで、よ、良かった……か、かな……」
口元を引きつらせ、がくがく体を震わせ……真は怯えながらも、引きつった笑みを浮かべた。
とりあえず、さっきまでに比べれば元気が出たのは確かなようだから、多少なりとも励ましになったなら良かったかな……と思う。思う事にする。
だってそうじゃないと、この自分の苦労と犠牲が報われないじゃないかっ。
「あー、派手に散らばったな……」
周囲を見回し、無残に散った餅と団子を見やりながら、真は髪についたきなこを払い落としつつ、自分の頭に落ちて引っ付いた餅を取る。
まあ、まだ食べられそうかな、なんて餅を口元へ運ぼうとするけれど。
「……真……?」
「!」
この状況で、私のすぐ目の前できなこ餅を食べようだなんて、いい度胸じゃないの。
いいえ滅相もありません梓様ご勘弁をご勘弁をご勘弁をー!
……なんて会話を視線だけで交わした直後。河川敷に、真の悲鳴がこだました。
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