西上・水樹 & 日陰舘・烏

●クリスマスの蚊帳の外、いつもの二人いつもの時間。

 ぷーぴー……。
 遠くでチャルメラの音が聞こえた。

 ここはとある公園。
 そこにぽつんとその店はあった。
 おでんの暖簾がかかったその店は、移動にも便利な屋台。
 暖かい湯気と香りが、道行く人を誘っていた。

「ああ、ここのおでんはやっぱり、美味しいな♪」
 だし汁に染まった大根を頬張りながら、水樹は嬉しそうに微笑んだ。
 今、水樹はおでん屋にいる。そう、屋台の。
 もっともまだ未成年なので、お酒のかわりにヘルシーな烏龍茶を飲んでいた。
 ちょっぴり、ビールにも……いや、みえないか。
「やっぱりここやったか」
 暖簾をくぐり、やってきたのは水樹の主でもある烏であった。
 烏はさっそく烏龍茶を頼み、水樹の隣に座る。
「お互いこういうイベントには縁がないね?」
「全くや」
 ふふっと笑みを浮かべる二人。
「はい、お待ち」
 屋台のマスターが烏の前に烏龍茶を置いた。
「ありがとな、おっちゃん」
 にっと微笑んで烏はさっそく烏龍茶を口にする。
「いつもどおりだねぇ?」
「そうやな」
 烏は頷いた後で、マスターにおでんを頼む。
「よし、乾杯しよう烏ちゃん!」
「何に乾杯するんや?」
 思わず突っ込む烏。
 水樹は突っ込まれて、しばし考える。
「………いつもどおりの日に?」
「なんやそれ?」
「いいからいいから♪」
 水樹は笑って、烏にグラスを持たせる。水樹も自分のグラスを手にした。
 烏はその肩をすくめる。
「………しゃあないなぁ…」
 烏がグラスを持ち直したのを確認して。

「「乾杯!」」

 ガラスとガラスのぶつかる音が響いた。
 心地よい音。
 二人の目の前にはいつの間にか、暖かいおでんが置かれていた。
 だしの香りと湯気でいっぱいの美味しそうなおでんが……。




イラストレーター名:黄桜伽奈子