白玖・蛍 & 朱鴉・詩人

●幼なじみのわめく頃に 〜 聖夜編

 クリスマスソングが響いて、イルミネーションがきらめく街角。
 大勢の人達で賑わっているそこに、蛍と詩人の姿もあった。
 彼らと、他の者達との違いがあるとすれば、2人は恋人同士ではなく、幼なじみだという事だろう。

「あ、ねぇねぇ見て! あっちの可愛い〜!」
 ぐいぐいと詩人の腕を引きながら、あっちの店へ、こっちの店へと歩いていく蛍。
 きらめくショーウインドウには、綺麗なお菓子や可愛いお菓子がいっぱいだ。
 あれもこれもどれもそれも、全部が魅力的に見えて、蛍は次々と釘付けになる。
「あ、あっちのお店もかわ……くしゅん!」
 また歩き出そうとした蛍だったが、不意に小さなくしゃみを1つ。
 どうやら、少し薄着だった事が影響して、体が冷えてしまったらしい。
 本当なら早く帰った方が良いのだろう。でも、まだ、この素敵なお菓子達を見続けていたい。
 どうしようかと考えて、蛍は結局、お菓子を見続ける事を選んだ。
「……やれやれ、仕方ないですね」
 そんな蛍の様子に、詩人は呆れた様子で小さく溜息と共に呟くと、着ていたジャケットの袖を掴み、脱いだそれを、そのまま蛍の肩へと掛けた。
「うーちゃん?」
 ふんわりと触れた温もりに驚いて、次にその意図に気付いて。思わず照れながら、蛍は詩人を振り返る。
「……ありがとうっ!」
 せっかく彼が気遣ってくれたのだから、ここは素直に甘えておこう。
 代わりに、お礼の言葉と、満面の笑顔を返す。

 そうして、また詩人の腕を引っ張りながら、次のお店に向かう蛍。
 またさっきのように、すっかりお菓子に釘付けになってしまった彼女は、気付かない。
 すぐ後ろで、詩人が小さく1つ、くしゃみをした事に。
(「……ま、気付かないのも仕方ないか」)
 ジャケットを脱げば、詩人の服装も、蛍とはそう変わらない。楽しげに進む幼なじみの後ろを歩き、夜風の冷たさを感じながら、詩人は小さく溜息をつく。
「うーんうーん、あれが一番気になるよう。うーちゃん、おごって?」
 そんな詩人の様子に気付かぬまま、とっても幸せそうな微笑みを浮かべて、振り返る蛍。
 彼女の姿に、ほんのちょっぴりだけ、悲しさを感じないでもない詩人だけれど……。
「……あれって、どれ?」
「えっと、真ん中の一番左のやつ!」
 期待の眼差しを向けてくる幼馴染に、結局、そのキャンディを奢ってあげる詩人なのだった。




イラストレーター名:風音昴