●雪を見上げて
予報では、雪とあった。
だから。だから瑠璃埜は天楼に告げる。
「先輩、雪、みたくありません?」
「雪?」
「そう、雪。白くてふわふわして……」
「冷たいぞ」
「うん、冷たい雪が見たいの。だって、クリスマスだし」
どうして、クリスマスだから、雪が見たいというのだろう?
天楼は、瑠璃埜の言葉に首をかしげながらも、瑠璃埜の望みを叶えるためにどうすればいいのかを考えていた。
その扉を開くと、肌寒い風が体を突き抜けていった。
開いた扉は屋上への扉。
天楼は瑠璃埜を屋上へと導いていた。
屋上なら、空も近い。すなわち、雪が見やすい場所ともいえる。
天楼は瑠璃埜の手を取り、ゆっくりと屋上を歩いていく。
辺りを見渡すと、天楼と同じ考えの者が多いらしく、カップルなどおおぜいの学生達が集まっていた。
「わあ、ちょっと寒かったかも……」
ぶるっと震える瑠璃埜。これくらい平気だと思って、上着を持ってこなかった瑠璃埜は、既に後悔し始めている。やはりここは一度戻って、暖かい上着を……。
ふわっ。
暖かいコートが瑠璃埜を包む。
いや違う。
天楼が自分のコートと体とで瑠璃埜を暖めているのだ。
「……おら、ゆっくり見てな。こうして暖めてやるからよ」
二人は屋上のフェンス近くに腰掛けて空を見上げた。
瑠璃埜は振り向き、天楼を見る。
天楼は黙ってあごで空を見るよう指示する。
困ったような嬉しそうな笑みを浮かべて、瑠璃埜は空を見上げた。
「先輩……大好き……」
このどきどきする胸の音、先輩には聞こえますか?
そして、数時間後。
空から冬の使者が舞い降りてきた。
そう、瑠璃埜の言っていた雪だ。
瑠璃埜は嬉しそうに雪に手を伸ばす。
その雪は瑠璃埜の手の中で、すぐに消えてしまった。
まるで、熱い二人の仲を邪魔しないように、あっという間に………。
| |