●…愛しています、誰よりも。
銀誓館学園でクリスマスパーティが開かれる夜。
凛は、白夜に誘われ、ダンスパーティの会場を訪れていた。
その手を白夜に預けながら、ダンスホールと化した体育館の中央に出ると、彼のリードで踊る。
(「日舞は小さな頃から、よくやってたけど……」)
こういったダンスは初体験の凛の胸には、ちょっぴり不安が過ぎらないでもない。
でも、まあ大丈夫だろうと、ダンスを重ねる。
曲に合わせてステップを踏むうち、やがて音楽が絞られる。
1つの曲の演奏が終わったのだ。
「……凛さん」
囁きと共に、白夜の顔が凛の足元へと移動する。跪いた彼は、すっと凛の手を取ると、その甲に軽く口づけて。
「愛しています、誰よりも。……貴女は、僕のことを想って下さいますか?」
柔和な微笑みと共に見上げながら、そう彼女に言葉を告げる。
「ッ――。馬鹿じゃ、ないの……」
歯が浮きそうなくらいクサいセリフ。そう言い捨てる事もできたはずだ。
でも、そのあまりにストレートな言葉に、凛は思わず、顔を真っ赤に染めてしまう。
照れ隠しのように、そう力なく零しはしたものの。いつまでも自分を見上げる白夜の瞳に、つい「はい」と答えてしまう。
どうしてだろう。
これでは、まるで、普段と立場が逆転したかのようだ……。
どうしてだろう。
こんなこと、初めてだから解らない……。
「可愛いなぁ、凛さんは」
「なっ、びゃく……!」
そんな彼女の姿に、思わずくすりと笑う白夜の言葉に、凛はますまず顔を赤くする。
普段なら、白夜の癖に生意気だと、そう即座に切り替えしていただろう。
でも、今は何故か、その言葉が途中でつかえてしまう。
「……ああ、次の曲が始まったみたいですね。凛さん、また一緒に踊りましょう」
「し、仕方ないわね。……付き合って、あげるわ」
ホールに再び響き始めた調べに、白夜は立ち上がると手を伸べる。ふいっと、そんな彼から視線を逸らしながら、凛は渋々といった様子で、彼の手に自分の掌を重ねる。
「はい」
くすっと、そんな彼女にまた笑みを浮かべて。
まだ耳まで真っ赤なままの彼女と共に、白夜はまた、踊り始めた。
| |