黒木・優 & ルナルネーヴェ・マイト

●背中を押したハプニング

 その日、優にとって、幸運な日であった。
 朝、何気なく見た新聞。そこであるものを発見した。
「こ、これはっ!!」
 新聞の端の方に、割引チケットがあったのだ。
 優はさっそく、それを切り離し、登校していったのであった。

「スケート場の割引チケット?」
「ええ、今なら半額でスケートが楽しめるそうですよ。靴も割安で借りれるそうですし、いかがですか?」
 優はそういって、ルナルネーヴェにチケットを見せた。
「なんだか楽しそうなの……うん、たまには汗を流すのっ!」
 どうやら、ルナルネーヴェも乗り気の様子。
 一度、家に帰って着替えてから、スケート場で待ち合わせとなった。

 スケート場には沢山の一般客が集まっていた。
 やはり、新聞にあった割引チケットのお陰だろう。
 二人がリンクを数周廻った頃、ルナルネーヴェはある提案をした。
「ん、この辺で1つ、大技行ってみるの!」
「大技?」
「イナバウアーとか、スピンとか!」
「イナバウアーは難しいけど……簡単なスピンならできるかもね」
 さっそく、比較的広い場所で、二人はそろってターン。
 そして、スピン!
「あっ」
 着地の時にバランスを崩して、ルナルネーヴェが倒れこむ。
「危ないっ!!」
 とっさに優がルナルネーヴェを支えようとするが、彼も倒れこんでしまい。

 ぎゅむん。

「……………わあっ!!」
 思わず声を張り上げる優。なんと優の両手にはしっかりとルナルネーヴェの胸が握られていた。
 ぎゅうっと。
「け、怪我はない?」
 優はそのままの体勢でルナルネーヴェに訊ねる。
「け、怪我はないの……だ、大丈夫……で、でも……」
 周りの視線が、痛い。
「ご、ごめん。すぐ退けますね」
 慌てて退けようとするも、つるっと滑って、今度はスカートの側に頭が来る。
「わ、わわっ!! ご、ごめんっ!!」
 ちらりと何かを見たような気がするが、今は見なかったことにする。
 断じて、何も見ていない! ……たぶん。

 こうして、二人はどうにか立ち上がった。
 二人の頬がいつにも増して赤い。
 気を取り直して、少し滑った後に、二人はスケート場を後にした。
 果たして、『楽しかったね♪』と二人が言えたか……?

 どちらにせよ、優にとって、シゲキ的なクリスマスになったのは、言うまでも無い。




イラストレーター名:荒巻 勝麻