●再会−サプライズプレゼント−
「あれ……?」
不意に辺りを見回して、壱帆は不安そうに瞬いた。
いない。
さっきまで、すぐ傍にいたはずの、彼が居ない。
「壱帆、どこや?」
同じ頃、翼も行き交う人々を見渡しながら呟いた。
一日中デートを楽しんで、最後は街角のクリスマスツリーの傍で過ごそうと約束して……そこまで向かう途中に、人の波に邪魔されて、互いに互いの姿を見失ってしまった。
「……壱帆も、きっと向かってるんやろな」
そう遠くできらめく、クリスマスツリーを見る。
一緒に見るって約束したから……あの場所まで行けば、会えるはず。
「あ……!」
ツリーの近くまで来た壱帆は、視線の端に映った人影を追いかける。
大切な人の姿を、見間違えるはずが無いと、翼の名を大きな声で呼ぶ。
「壱帆?」
振り返った翼へ、飛び込むように抱きつく壱帆。彼女をしっかりと受け止め、翼は笑いかける。
「翼、やっと見つけた……!」
「なんや壱帆、そんな泣かんでもええやろ」
不安と安堵の入り混じった顔で、こらえきれず涙をこぼす壱帆。そんな彼女に苦笑しながら、でも愛しそうに、大丈夫だと翼は告げる。
「う、うん……」
翼の言葉に壱帆が落ち着きを取り戻すと、2人は一緒にツリーを見上げて。
「せや、壱帆。これ、わいからのプレゼントや」
「ありがとう……あのね、翼。これは、あたしから」
用意していたプレゼントを、互いに互いへと渡し合う。翼からのプレゼントはネックレス。壱帆からのプレゼントは指輪。それぞれを、大切そうに覗き込む。
と……。
「あ、鐘の音……」
辺りに響く鐘の音は、恋人達に時刻を告げるもの。夜の闇の中で幻想的に浮かび上がるツリーを前に、2人は微笑み合うと、そのままそっと触れ合って……抱きしめあう。
「……メリー・クリスマス」
そっと離れながら、翼は壱帆の手の内にあるネックレスを取ると、それを彼女の首元へ回す。
壱帆の意識が、そこへ向いている間に、翼はそっと彼女の額に唇を寄せて……。
「な……!」
その感触に一瞬呆然とした後、壱帆は顔中をこれ以上無い位真っ赤に染める。
彼女の反応に悪戯な笑みを浮かべる翼だが、次第に涙が滲むのを見ると、ハッと慌てた顔をして。必死で彼女が泣き出さないよう、あれやこれやフォローをする。
そして2人は、また見上げる。
聖夜の夜にきらめく、素敵なクリスマスツリーの姿を。
「……また、来年も一緒に、過ごせるといいな。クリスマス……」
「せやな」
そっと願いを掛ける2人の手は、強く、しっかりと握られている。
この手が決して離れる事の無いように……まるで、そう祈るかのように。
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