藤野・沙羅 & 織部・結槻

●Silent Night

 クリスマスの夜。
 友達とのパーティーも終わり、帰宅時間になっていた。
 帰ろうとする沙羅に結槻は。
「夜も遅いですから、家まで送りますよ」
「あ、でも……」
「夜は物騒ですし、送っていきます」
 どうやら、断る事は難しそうだ。それに一人で帰る事に不安が無かった訳ではない。
「それじゃ、よろしくお願いします」
 ぺこりと沙羅は結槻に頭を下げたのであった。

「今日のパーティー、とっても楽しかったですね」
 沙羅は楽しそうにパーティーの事や年末年始の話題で盛り上がっていた。
 と、沙羅の自宅付近にある、少し大きめの公園に通りかかったとき。
「結槻さん、クリスマスツリーですよっ」
 きらきらと瞳を輝かせて、沙羅は発見したツリーを指差した。
「それじゃ……ちょっと寄り道しましょうか」
「はい」
 二人はゆっくりと公園の中に入っていく。
 と、そのとき。

「わぁ……!」
 ちらちらと雪が舞い降りてきた。
「雪です、結槻さん、雪ですよ」
 沙羅は結槻に微笑みながら、気持ち良さそうに歌いだした。
 定番のクリスマスソング。
 その澄んだ沙羅の歌声が、公園に響いていく。

「沙羅さん……」
 楽しそうに微笑む沙羅を、結槻は眩しそうに見つめていた。
 はらはらと舞い散る雪。後ろにはツリーの輝くイルミネーション。
 雪とイルミネーションの2つの輝きは、沙羅の美しさを更に際立てていた。
 そう、その姿はまるで、聖なるもののように、儚く感じられた。
 触れておかないと、しっかり掴んでおかないと、消えてしまいそうなほど、儚く。
(「ああ、こんなにも遠かったでしょうか?」)
 伸ばせば触れられる距離だと思っていたのに、こんなにも離れているように思う。
 焦りだけが、結槻を支配し始める。
 思わず結槻は手を伸ばした。
 消えてしまいそうな沙羅の、その手へと………。




イラストレーター名:タマキ ハル