綾上・千早 & 奈那生・登真

●クラウス爺さんのお手伝い ☆ 疾風怒濤編

 クリスマス・イヴの朝。
 ……登真は、大きな溜息をついた。

 事の発端は、実に唐突に発せられた千早の一言だった。
「サンタさんの手伝いをします」
「はぁ?」
 なんだそれ、と呟く登真に、千早は実に真剣な顔をして。
「子供達に配ってばっかりじゃ、サンタさんが不憫ってもんでしょ? だから、せめてあたし達だけでも、サンタさんのお手伝いをします」
 そう決意表明をする千早。
 てゆーか、決定?  あたし達って、2人でやるの、確定?
「……念のために訊くが、お前、その歳でまだサンタクロースを信じ……」
「そうと決まれば善は急げ! ほら、行くわよナナ!」
 まさか、と投げかけた問いは、最早彼女の耳には届いていないようだ。登真の腕を無理やり引いて、ずんずん歩く千早の姿に、登真は盛大に溜息をついて……。

 かくして。
 サンタさんのお手伝いをするのだと燃える千早と、彼女の、純真だが非常におバカな思いつきを平和裏に実現してやるかと溜息をついた登真は、それぞれ、ミニスカサンタとトナカイに扮して、出発するのだった。
「……行き先は、ここと、そこと、あと、こっちな」
「ようし、れっつごー!」
 登真の地図を簡単に確認して、千早は意気揚々と目的地に向けてダッシュ。
 ちなみに行き先は、クリスマスイベントの会場だ。登真が片っ端から電話を掛けて、サンタ役のボランティアを欲しがったイベントを見つけ出したのである。
 あれこれ準備を進める間に、あっという間に時間は過ぎて、もうすっかり辺りは暗い。
 そんな夜の街を、2人は駆けていく。
「よーし、近道!」
 千早は塀に登ると、その上を駆ける。やがてタイミングを見計らい、今度は屋根へと登れば、更にそのまま突き進む。
「お前、せめてちゃんと道を走れよ……ったく」
 止めようとする登真だが、その間に千早はぴょーんと跳ねて、器用に屋根から屋根を伝って先へ向かう。
 このままでは、道を迂回しなければならない登真は、置いていかれてしまいかねない。
 ……今日、もう何度目になるか分からない溜息をついて、登真は仕方なく、自分も屋根に登ると、千早を追いかける。
 なんといっても、彼女を1人で放っておくのは、危なっかしくて心配で心配で仕方ない。
「……今頃、コタツで鍋でも突いてるはずが、何故こんな事に……」
「鍋ぇ? クリスマスなんだから七面鳥喰えー!」
 暖かい部屋での鍋を空想しながら、はあ……と溜息をつけば、それが聞こえたのか、前の方から千早の声が飛んで来る。
「や、待て。俺が言いたいのはそういう事じゃなくて……」
「ってナナおそーい! ほれ急げ、子供達がサンタのおでましを待ってるわよ!」
 苦々しい顔で突っ込もうとする登真だが、千早はそれをさっくり無視して、彼を手招きする。
「…………へいへい」
 また盛大に溜息をついて、元気が衰える気配すらない千早の背中を、追いかけていく登真だった。




イラストレーター名:妹尾 和泉