槙野・章 & 三神・清流

●聖なる夜、降り積もる雪、ふたり。

「お、雪か」
 屋上にやって来た章は、空から舞い降りるそれを見上げて呟いた。
 フェンスに近付けば、聖夜の街を彩るように灯る明かりに、粉雪が吸い込まれていくのが見える。
 今日は、クリスマス。
 夜が更けていくうちに、いつしか、ホワイトクリスマスになっていたらしい。
「道理で寒いはずだよなぁ。あー、息も真っ白だぜ」
 章の後ろから、そうどこか楽しげに笑うのは清流。今夜は冷え込んでいるようだが、その寒さよりも、ホワイトクリスマスとなった興奮の方が勝ったようだ。
「ま、コートも着てるし、これもあるから、そう寒くはないかな」
 清流の様子に、章はマフラーの先を掲げて見せながら振り返る。一見、ごく普通の深緑色のマフラーに見えるそれには、可愛らしいモーラットのワンポイントが入っていた。
「おっ、それいいな。どこで手に入れたんだ、それ?」
「……って、そう言う清流の手袋もモーラットじゃないか」
 思わず章の首元に手を伸ばす清流。
 そんな彼が着けている白い手袋にも、甲の部分にモーラットが見えた。
 彼らは、強い絆と熱い友情で結ばれた親友同士……にして、モーラット好きとしての同士でもある。
 それぞれが身に着けているモーラットグッズを、お互いに触り合いつつ、2人はしばらく、モーラットについて熱く語り合っていた。

「……そうか、そういえば、もうじき今年も終わりなんだよな」
「あっという間だな……あと1週間もすれば正月か」
 モーラットについて話すうち、今年の出来事へと話題を移した2人は、やがて、そう頷きあった。
 今年も色々な事があった。振り返れば、数えきれない程の出来事や思い出が蘇ってくる。
 その1年が、もうじき終わるかと思うと、なんだか少し感慨深いものがあると章は思う。
「……楽しかったな、この1年。みんなと……何より清流と会えて、良かったなあ」
 そうしみじみと、噛み締めるような章の言葉に、清流は屈託のない笑みを浮かべて「こっちこそ」と切り返す。
「俺だって、章と会えて良かったと思ってるんだ。……また、来年もよろしく!」
「ああ、よろしくな」
 そう拳を差し出した清流の拳に、章は頷きながら、こつんと自分の拳を重ねる。
 交し合った視線は、自然と、どちらからともなく緩められて。
 互いに笑みをこぼすと、2人は肩を並べながら、もうしばらく聖夜の街を見下ろすのだった。




イラストレーター名:銀木夕