●今宵ふたりで。
街を美しく彩るイルミネーション。
綺麗なクリスマスツリー。
響太郎となるは、それらを見る為に夜の街へと繰り出した。
お揃いの色のコートを着て、目的地へと向かう。
「わあ……こんなに綺麗だなんて、思わなかった」
なるは嬉しそうにイルミネーションを見上げた。
「なるセンパイに喜んでもらえて、俺も嬉しいよ」
響太郎は続ける。
「ねえ、なるセンパイ。このツリー、近所で評判のツリーなんだよ。もっとも、この場所を知っているのは、近所に住んでいる人達と、インターネットで調べてきたマニアなカップルしかいないんだ」
だから、穴場。そういって、響太郎は悪戯っぽく微笑んだ。
「……響太郎さんは、インターネットで調べてきたマニアさん?」
そのなるの質問に、響太郎は笑い出す。
「違う、違いますってば。俺の親戚が近所に住んでいるんだ。それで、この場所を知ってね」
「よかったー、変なマニアだったら、どうしようかと思っちゃった」
「それは考えすぎです、なるセンパイ」
くすくすと笑いながら、二人の距離はいつの間にか近づいていた。
「それにしても……ホント、綺麗……」
もう一度、なるはイルミネーションを見た。その手には響太郎の手が握られていた。
「寒くない?」
いつの間にか握られた手は解かれ、どちらからともなく寄り添っていた。
いや、抱き合っていた。
「あ、ご、ごめんなさい!」
慌ててなるは、見上げていた響太郎の顔から視線を逸らした。
はずだった。
「あっ……」
互いの唇が、重なり合う……。
「きょ、響太郎さんっ……」
「嫌だった?」
余裕を持ったその響太郎の質問になるは、真っ赤になって言った。
「きょ、響太郎さんの、いじわるっ……」
二人にとって、思い出のひととき。
このことを知っているのは、ここにいる二人と。
そして、イルミネーションの光を優しく降り注ぐ、大きなツリー。
二人の夜は、まだ、これから………。
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