山田・龍之介 & 檜山・春歌

●CLUBを抜け出して…

 龍之介と春歌は、自販機で暖かいコーヒーを買ってから、2人並んで階段に腰掛けた。
 今日は、クリスマス。
 一緒に参加したクラブイベントを抜け出して、今は2人きり。
 缶コーヒーで暖を取りながら、とりとめのない会話に興じていた2人だったけれど……。
 不意に、会話が途切れて。
「……どうして、私なの?」
 訪れた沈黙を破って、春歌はそう問いかけた。
 ついさっき告白を受けて、2人は恋人同士になったばかり。
 でも、彼が自分を選んだ理由がよく分からなくて。だから、思いきって直接本人に聞く。
「そうだなぁ。最初は偶然見かけて、お、かわいいなぁとか思った」
「……うん」
「で、あん時バス停欲しがってんのを知って速攻贈った」
「あの時はビックリしたなぁ」
 龍之介の言葉に、その時の事を思い返してくすっと笑う春歌。
 そんな彼女を見ながら、龍之介は続ける。
「でさ……春歌が結社の友達とかと話してんの見かけて、この子いいなぁって」
 そう思ううちに、いつの間にか、それが『好き』という気持ちになっていて。
 でも、恩着せがましくなる気がして、結社にも誘うに誘えずにいたら……。
「春歌の方からウチに入って来てくれてさ。あん時は、マジでガッツポーズした」
 そう龍之介に笑いかけられたら、春歌の方が照れ臭くなって、恥ずかしそうに顔を真っ赤にする。
「……告白されて、最初はビックリしたです。でも……私も先輩のこと、好き……です……」
 少し俯き気味に伝える春歌。その言葉は、恥ずかしさから少しずつ萎むかのように小さくなっていく。
 けれど、その言葉は、すぐ隣にいる龍之介の耳には、しっかり届いていて……彼もまた、照れ臭そうな表情を向けている。
「先輩。ちょっと、目をつぶって下さいです」
「? おう」
 そんな龍之介に向けて告げられた言葉に、少し怪訝にしながらも、龍之介は頷く。
 春歌は、彼が瞼を閉じるのを確認して、それから……そっと、その頬にキスを贈る。
「なっ……!」
 その感触に不意を突かれた龍之介は、驚きに目を見開いて春歌を見下ろす。だが、そのまま何かを続ける前に、ラッピングされた小さな箱が差し出された。
「これ、クリスマスプレゼント!」
 龍之介の掌に乗せられた感触。それを、しっかり受け取る頃には、龍之介も多少は落ち着きを取り戻して。
「……ありがと。俺からも」
 用意しておいた彼女へのプレゼントを渡して……そのまま。
 唇にキスを落とす。

「……お、降ってきたな」
 春歌から離れた龍之介の視界に入るのは粉雪。ホワイトクリスマスだな、と呟いた言葉に、春歌も空を見上げて。
「う、うん……。メリー、クリスマス」
「メリークリスマス」
 そのまま、2人は寄り添いながら、聖夜の時を共に過ごすのだった。




イラストレーター名:芳田ひふみ