梶原・玲紋 & 八伏・弥琴

●小さなイルミネーション ―大きな星と白い猫―

「綺麗に飾れてよかったね!」
「そうだな、なんとか間に合ってほっとした」
 その玲紋の言葉に弥琴はくすっと笑った。
 学園のクリスマスツリーを飾り終えた玲紋と弥琴は、そろって帰宅途中。
 けれど、少し残念そうな表情を浮かべる弥琴の心を、玲紋は人知れず理解していた。
「ただいまー」
 弥琴が元気良く、玄関を開け、リビングへ。
「………えっ!?」
 そこにあったのは、まだ飾る前のツリー。
 学園にあったツリーと比べるとかなり小さいが、家庭用としては少し大きいように思う。
「玲、これって……」
「お、見つけたか」
「見つけたか、じゃなくって……」
「久しぶりに家でも飾ろうって思ってな。そう……気まぐれってやつだ」
「玲……」
「ほら、荷物さっさと部屋に置いてこいよ。今度はコイツの番だ」
「ありがと、玲!! 嬉しいよっ!!」
 ぎゅむっと抱きつき、そのまま自分の部屋へと走っていった。
「全く、世話のかかるヤツだ」

(「家でツリー飾るなんてガキの頃以来だよなー」)
 リビングにツリーを置いて、玲紋は幼き日の事を思い出していた。
 あれからそれほど経っていないというのに、遠い日のように思うのは、気のせいだろうか。
 というか、かなり遅い。
「何しているんだ、ミコは」
 ずかずかと、玲紋が弥琴の部屋の扉の前に来たときだった。
「ごめん、お待たせっ!!」
 ばんっ!!
 勢い良く扉が開いた。
 玲紋も巻き込んで。
「お、おーまーえーなーーーー」
「うわあっ!! な、なんで、玲がここにいるの?」
 赤くなった鼻を押さえながら、玲紋はうずくまっている。
「じゃねーだろが。お前が遅いから……」
「はいこれ」
 そんな玲紋の前に差し出されるは、白い猫のマスコット。
「形は悪いけど気持ちは込めたつもりだよ。それは玲がつけてね。それと……ホントにごめん。鼻、大丈夫?」
 良く見れば、弥琴の手は絆創膏だらけだ。本当に一生懸命作ったようだ。
「ああ、なんとかな……」
 やっと起き上がり、弥琴の頭をくしゃりと撫でた。
「何を作ったのかと思えば。……しょーがねーな、メインのてっぺんの星は、お前に飾らせてやるよ」
 そういって、玲紋は持っていた星を弥琴に手渡す。
「これって……」
「ほら、さっさと飾るぞ」
「うんっ!!」

 金のベルをつけた弥琴。その隣では、同じ形をした銀のベルをつけている玲紋。
 互いに笑いあいながら、ツリーを飾る。
 そして、最後の大きな星は。
「しっかり抑えててよっ!」
「ああ、抑えてるから、さっさと付けろ」
 弥琴が嬉しそうに取り付けた。
 何年ぶりかに明かりが灯ったクリスマスツリー。
 二人の目には、学園で飾ったツリーよりも、もっと綺麗に映ったのであった。




イラストレーター名:夢観士 あさき