●Dance to christmas
美しい調べが響く、ダンスパーティの会場。
クリスマスを満喫しようとする、大勢の男女で賑わうそこに、隼人と翠の姿もあった。
奏でられる旋律に合わせて踊っていた2人は、曲が一区切りしたのに合わせて、一旦足を止める。
「……翠」
「? なんですか……?」
真剣な表情で口を開いた隼人に、翠は怪訝そうに首を傾げる。
「今日は、君に渡さないといけないものがある。……さあ、左手を出してごらん」
そう隼人に乞われても、まだ不思議そうな様子の翠は「なんですか?」と小首を傾げている。
「忘れ物だよ」
告げられても、まだピンと来ない。
それでも、とりあえず言われるまま、翠は隼人に左手を差し伸べる。
その手に優しく、そっと触れて。隼人は微かに笑みを浮かべると、空いている方の手を、後ろのポケットに回す。
すっと、流れるような動きで取り出した指先を、彼女の薬指へと伸ばせば。
「……メリー・クリスマス」
「これ……!」
向けられた視線と、薬指の根元できらめく輝きに、翠は思わず息を呑んだ。
それは、とても綺麗な翡翠の指輪。
「これが俺からの贈り物だ」
隼人にそう告げられて、みるみる翠の顔が赤くなる。
それは……。それって……!?
「あ……ああああ、ありがとうございます!」
突然の出来事に軽くパニックになりながらも、とにかくお礼を言わなくっちゃと翠は告げる。その顔は、もうすっかり、耳まで真っ赤に染まってしまっている。
そんな彼女の様子に、隼人は微笑ましそうに笑うと、また再び彼女の手を取る。
「新しい曲が始まったな。……また、一緒に踊ろう」
「は、はい……」
どうやら、今度の曲はワルツのようだ。翠が頷くと、隼人が彼女をリードし、また2人は踊り始める。
手と手を触れ合わせ、そこから伝わって来る、お互いのぬくもりを感じながら……。
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