●二人の静かなる聖夜 〜 私と猫
「うわぁ、綺麗やなぁ〜……」
かつかつとハシゴを登りきったよさみは、そう周囲の景色を見下ろした。
屋上の、更に貯水タンクの上まで登りきってしまえば、周囲に遮るものは何も無い。
きらめく街の明かりが、とても綺麗で。よさみは思わず感嘆の息をつく。
「な、氷雨ちゃん。ちゃんと見えとる?」
同意を求めるように、振り返った先は足元。そこには、一匹の猫……もとい、猫変身した氷雨の姿がある。
頷き返す氷雨に「なら良かったわ」と笑うと、よさみはタンクの端に腰かける。その側に、とことこ歩いてきた氷雨が、ひょいっと彼女の膝に乗る。
冬の夜は寒いから。
彼女が少しでも暖かいように……そのために、猫の姿になったのだから。
「ふふ……氷雨ちゃん、今夜は楽しもうな?」
その様子に、よさみは目を細めて、彼の体を優しく撫でる。
(「私は巫女やさかい、これまで、クリスマスとは全く縁が無かった訳やけど……」)
でも、今年は違う。一人だけじゃない、だって……氷雨が一緒にいるから。
「……あ、氷雨ちゃん! ほらほら、雪や!」
夜景を眺める視線が、やがて驚きにまばたいて。直後、よさみの口から歓声が上がる。
はらり。はらり。
舞う粉雪が屋上を通り過ぎ、そのまま地面に吸い込まれていく。
「これがホワイトクリスマスってやつやね……?」
よさみは、膝にいる氷雨に語りかけると、雪の降る空を見上げた。
(「……屋敷で見た雪と、この学園で見る雪は、なんだか違うように思えますです……」)
空を見つめながら自分を優しく撫でる、よさみの事を見上げながら、そう氷雨は思う。
いつもは、降る雪に何かを思うような事なんてなかった。何も変わらず、ただただ繰り返し降るだけの物に過ぎないと、そう思っていた。
でも……今日の雪は、とても特別な物のような気がすると、そう氷雨は思うのだ。
だって、よさみと一緒に過ごす、このクリスマスに降る雪なのだから……。
(「庭井さんと一緒にクリスマスを過ごせて……本当に、本当に、すごく嬉しいです……!」)
見るからに嬉しげに瞳を細めながら、氷雨は思う。
こんな風に、景色を眺めて、ずっと一緒に過ごせますように。
来年も、その次も、そのずーっと後も、一緒にクリスマスを過ごせますように……。
「……うち、銀誓館に来て、よかった。氷雨ちゃんに会えて……ホンマによかった」
その気持ちに重なるかのように、よさみから呟きが零れる。
2人の思いは同じ。
これからも、こんな風に2人で過ごしていくこと。
(「また、また一緒に雪を見ましょうですっ♪」)
そう訴えかけるように見上げる氷雨の気持ちが伝わったのか、よさみは「うん」と頷くと、また彼の背を優しく撫でた。
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