●―それは大きくて、温かくて、優しい背中―
「うう……」
是空は、屈み込みながら情け無さそうに声をこぼした。
……約束、したのに。
それが果たせそうになくて。
胸に、感情が込み上げる。
そもそも、事の発端は、是空と章人が『しりとり勝負』をした時のこと。
章人に負けた是空は、彼と「クリスマスには高校男子が喜びそうな格好で、何かする」という約束を交わしたのだ。
(「……何かする……」)
むむむ、と悩みこんだ是空が閃いたのは『おんぶ』だった。
だって自分は、おじいちゃんにおんぶして貰うのが、とても好きだったから……彼も、そうしたら、喜んでくれるんじゃないかと、そう思って。
だから……この日に向けて、頑張ってトレーニングしていたというのに。
そこは年齢の差か体格の差か……とにかく。
是空には、章人を背負う事が出来なかったのだ。
それどころか、彼を背負うために全身の力を使い尽くしてしまったのか、もう立ち上がる力すら残っていない始末で……それがまた、是空の情けなさを深くさせる。
「地祇谷、大丈夫か?」
そんな是空に、章人は心配げに言葉を掛けると、反対に、彼女の前に屈んで、その体を背負った。
「ひ、弘瀬さん……」
すぐ後ろから発せられる声。
章人は、今の彼女の様子がどうなっているか、目に見えないけれど、手に取るようだと思う。
……別に、彼女に背負って欲しかった訳ではないのだ。
(「そりゃあ、地祇谷が俺の為に頑張ってくれるのは、とても嬉しいけど」)
章人にとって重要だったのは、こうやって、彼女と一緒にクリスマスイヴを過ごす事だったから。
その為に、わざわざ『クリスマスの日に』と約束をして……それだけに過ぎないのだから。
これで十分なのだ。少なくとも、章人にとっては。
だから……。
「一緒にいてくれて有難うな、地祇谷」
彼女への、その微笑ましさで胸をいっぱいにしながら、章人は囁く。
「………」
その言葉に、是空は自分の瞳がじわっとなるのを感じる。
これは……涙が出そうになっているのは、情けないからだ。
別に、優しい彼におんぶされて嬉しいとか、そういう訳ではないのだ……。
そう是空は、油断すれば零れてしまいそうな涙をこらえながら、ぎゅっと、章人の肩に回した両手に力を込めた。
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