榊・巽 & ウィルベル・アヤツジ

●Снег Кролик

 とある山道。
 そこに一台のバイクが滑るように入っていった。
 そして、そのバイクがゆっくりと止まる。
 止まったバイクのその先。
 そこは、一面の銀世界であった。

 話は少し遡る。
「雪が見てみたい……」
「雪?」
 ウィルベルの言葉に巽が訊ねる。
 こくりとウィルベルは頷き、また口を開いた。
「一面の銀世界を……見てみたいの……」
 そういうウィルベルに、巽は思い出したように。
「それなら、連れてってあげるよ。ベルの見たいって言う、銀世界をね」

 そして、今。巽のバイクでこの雪原へとたどり着いた。
 ウィルベルもヘルメットを外し、ゆっくりと草原の方へと歩いていく。
 触れる外気は冷たく、吐く息が白い。
 どこを見ても雪、雪雪雪雪……白い、雪ばかり。
「…っ……」
 初めて見た銀世界に、ウィルベルは感極まり、言葉を失っていた。
 頬を染め、その目に刻み込むかのように瞳を見開きながら、ただただ目の前の雪原を見つめていた。

(「さすがに、空気が澄んでるな」)
 そう思いながら、巽もヘルメットを外し、ウィルベルの側へと歩き出す。
 銀世界に感動しているウィルベルに巽も嬉しそうな笑みを浮かべた。
「つれてきてよかったな……」
 思わずそんな声が出てしまう。
 ウィルベルを邪魔しないように、辺りを歩き出す。
 ふと、足元を見ると、小さな葉っぱが見えた。
 雪に埋もれるはずのその葉を巽は拾い上げ、何かを思いついたかのように、その場にしゃがみこんだ。
 ウィルベルはまだ気づいていない。
 巽はそのまま作業を始めた。
「なつかしいな。こんなの作るの、いつ以来だろうな」
 瞳を細めて、巽はさきほど拾い上げた葉をそれにつけた。

「……綺麗……」
 思い出したかのように漏れるウィルベルの声。
 ゆっくりと歩き出し、それに気づいた。
「思ったより……柔らかい……」
 ふわふわとした雪を踏みしめながら、ウィルベルは楽しそうに歩いていく。そして、出来ていくウィルベルの足跡。それがなんだか嬉しくて。
「ベル〜〜」
 遠くでウィルベルを呼ぶ声が聞こえた。

「……なに……? たつみ……」
 ウィルベルは巽を上目遣いに見上げるように訊ねた。
「ほら」
 そういって、見せたのは手の中にすっぽり納まるくらいの雪うさぎ。その耳には先ほど巽が拾った葉っぱがつけられていた。
「……可愛い……」
 嬉しそうに頬を染めるウィルベルに。
「ベルの嬉しそうな顔見ると、俺も嬉しいよ」
 巽も幸せそうに笑みを浮かべたのであった。




イラストレーター名:海産物