●ヤドリギの下で
「はぁ……はぁ……。流石に、撒いたな……」
日の落ちた校舎の一角。誰もいない教室に飛び込んで、ようやく辰美は一息ついた。
真里亜と2人、屋上で静かな時間を過ごしていたものの、偶然に同じ結社の知人と出くわして……。
いい雰囲気だったところを邪魔されたくなかった辰美達は、こうして、すぐ下の教室の1つへ移動して来たのだった。
……そういえ、ば……!?
「! 藤崎、スマン!」
そこまで思い返して、辰美は慌てて真里亜を見た。
つい、無意識のうちに。
彼女の体を抱きしめて、ここまで来ていたから……。
「い、いいえ、大丈夫ですわ……た、辰美さん」
真里亜の方も、ここまでの間、彼に抱きしめられて驚いたのだろうか。
少し混乱気味な様子を見せながらも、首を振る。
そんな彼女から、辰美はそっと腕を離して……。
……それから、もう1度、手を伸ばした。
伸びた指先は真里亜の髪に触れ、それをゆっくりと、優しく撫でていく。
頭の上から、毛先へ。そこから、また今度は、根元の方へ……。
彼が滑らせていく、その指の動きに、ただ黙って、真里亜は静かにその身を預ける……。
「真里亜……」
囁くように紡がれた名前が、耳をくすぐる。
辰美が名を呼びながら、指先を頬へ滑らせていくのを、真里亜は瞳を閉じて、ただその感触だけで感じている。
「はい……」
そっと指先が頬を撫でるたび、頬が上気するのを感じながら、真里亜は瞼を開けると、辰美を見上げた。
互いの、視線が、絡む。
「………………」
「………………」
絡み合ったまま、2人の上に落ちるのは沈黙。
ただ、静かに。
見つめあう2人の姿が、まるで吸い寄せられるかのように近付いて。
「あ……」
唇に、触れれば。小さな囁きがこぼれる。
互いの吐息が、重なり合って……1つになる。
「……真里亜。これからは、真里亜って呼んでもいいか?」
「……はい、辰美さん……」
やがて囁かれた甘い問いかけに、真里亜は頬を真っ赤に染めながら、こくりと小さく頷いた……。
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