川・龍仁 & 神崎・祷

●既知感〜Deja vu〜

 クリスマス・イヴの昼下がり。
 龍仁と祷は、薔薇のアーチが見える温室のテーブルに腰を下ろし、互いに向き合っていた。
「ここはポカポカしていて、とても過ごしやすいですね。……ケーキも、とても甘くて美味しいですし」
「そうですネ。そういえば、祷さんはコーヒーより紅茶派ですカ?」
 2人の間には、ケーキと暖かい紅茶の入ったポットとカップ。
 互いにそれらを口に運びながら、他愛のない会話に花を咲かせる。
 最初は、2人の間には少し、ぎこちない空気が流れていたけれど……。龍仁がお互いの出身地についての話題を持ちかけたり、興味を持ってくれた彼女に、近所の中華街の事を話したりしているうちに、その空気は和らいでいった。
 温室には、柔らかな日差しが差し込んでいて……こうしていると、今が冬だとは到底思えない。
 まるで、一足早く春が訪れたかのようなこの場所で、2人はゆったりとした時間を過ごす。

(「川さんの事、ちょっぴり怖い人だと思ってましたけど……」)
 それは、これまであまりお話した事が無かったからなのだろうと、祷は今なら思う。
 こうして過ごすうち、なんだか、一緒に過ごしていると落ち着くというか、ほっとするというか……。
 これが、とても普通で、当たり前の事であるかのように、祷は思い始めていた。
「……不思議ですね〜。何だか、こうして川さんと過ごすのが、とても懐かしいような気がします」
 そう、祷は不意に目を細める。
 すぐに「ちゃんとお話したのすら、今日が初めてなのに……おかしいですね」と苦笑する祷だが、その言葉に、龍仁は思いがけない言葉を返す。
「おや、それは奇遇ですネ。実は私も、祷さんとは、どこかでこんな風に過ごした事があるような……そんな気がしていたんですヨ」
「え!?」
「もしかしたら、お互いに昔、どこかで出会っていて……その事を、忘れているだけなのかもしれませんネ」
 驚きに目を丸くする祷に、龍仁は、どこか心なしか嬉しげに笑みを浮かべる。
 それは、自分が感じていた既知感を、彼女もまた、同じように感じていたと知った、その喜びゆえなのかもしれない。
「そうですね、とっても小さい頃で忘れているのかも……そのうち、思い出したら教えてくださいね。私も、その時はすぐ教えますからっ♪」
「ええ、もちろんですヨ」
 そう頷き合うと、2人はまた、他愛の無い会話に花を咲かせる。

 互いに、同じような既知感を抱いていた事が、2人の距離をこれまでよりもぐんと縮めさせて……。
 やがて席を立つ頃には、2人は最初のぎこちなさが嘘のように、とても打ち解けあった笑みを浮かべていた。




イラストレーター名:画洵