●貴方と共にいきたい〜鳥籠を出る日〜
クリスマス・イヴから一夜明けた、12月25日。
龍巳は小さく溜息をつきながら、開いていた本を閉じた。
……集中できない。
本を読もうとしても、昨日の出来事が鮮明に蘇って来るからだ。
宿り木の下で、紗夜から告白されたこと。それを受け入れたこと。口づけを交わしたこと……。
突然の告白だったから、まだ、自分の中で気持ちが整理できていないのだろう。
(「でも、それはきっと……」)
お互いに、そうなのだろうと龍巳は思う。
ならば、自分が彼女を、導かなければいけないだろうとも。
「……よし」
龍巳は立ち上がる。彼女の元へ向かうために……彼女を、迎えに行くために。
「あ……」
結社の庭を歩いていた紗夜は、そう小さく呟いて動きを止めた。
彼がいる。
同じように自分に気付いて、視線を寄越す龍巳を見たら、思わず体が震える。
怖い訳ではない、と思う。少なくとも。彼が怖い訳ではないのだ。
でも……。
(「私、一体どうしたら……?」)
どうしたらいいのか、わからない。
自分は、ずっと。こんな出来事に直面した経験なんて、無かったから。
祖父の下で育った自分は、ずっと祖父に従って生きてきた。
祖父の手で護られている家の中で……まるで、籠の中で過ごす鳥のように……。
「紗夜」
言葉が紡がれる。
龍巳は知っている。紗夜がどのような事情の元で暮らして来たのかを。
だからこそ。
戸惑いと動揺に染まり、立ちすくむ彼女に向けて微笑みかける。
手を、差し伸べる。
「行こう。……いつまでも、籠の中じゃ、つまらないだろ?」
その言葉に、紗夜は自分の中で、何かが解けた気がした。
――ああ、自分は、鳥籠に閉じ込められている訳ではないのだ。
籠の扉に鍵など掛かっていないのに、勝手に、自分で中に閉じこもっていただけ。
鳥には、自由に飛び回れる翼がある。
だから自分も……外の世界へ、行く事が出来る。
彼と、一緒に。
「……はいっ!」
一歩踏み出せば、後は自然に足が駆ける。
鳥籠の中から、外の世界へ。彼がいる、とてもとても広い世界へと。
これが自分だなんて、嘘みたいに駆けていく……飛んでいく。
(「……これからは、龍巳さまと一緒に……!」)
どこまでもどこまでも、2人、歩んで行けるはずだから。
そう思うと、紗夜の顔には自然と、嬉しさに満ちた笑みが弾けた――。
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