芹沢・彼方 & フェンリル・フローズヴィトニル

●今宵、貴女と。

 彼方とフェンリルは、銀誓館学園で行われている、ダンスパーティの1つに参加していた。
 会場となる体育館で待ち合わせた2人は、互いに正装した姿を見せ合って。
「ドレス……似合ってる、かな……?」
「ああ」
 フェンリルの問いかけに彼方が頷くと、その返事に、くすっとフェンリルは笑みをこぼした。
 そのまま、彼方の手を取ろうとするのより、ほんの少しだけ早く。反対に彼方の方が差し伸べた手に、フェンリルはそっと、自分の掌を重ねる。
「恋人とは少し違うけど……こんな時くらいは、いいよね」
「ま……こーゆーのもアリだよな」
 今日はクリスマスで、ここはクリスマスダンスパーティの会場。
 だから、こんな風に踊ってみるのも悪くは無いだろう。
 そう2人はダンスの輪の中へ加わると、互いに笑いあいながら、奏でられる音楽に合わせて踊る。
 本格的なダンスが踊れる訳ではないけれど。ゆったりとしたテンポで、2人一緒に踊るのは、予想以上に楽しいことだと、彼方は思う。
(「……別に、わざわざ改まってチークダンスするほどでもないんだけど」)
 ドレスアップした自分の姿を何気なく見下ろし、フェンリルは思う。
 それでも……なんだか、ちょっぴり幸せだという気分になれるのは。
 きっと、片思いの相手と一緒に、ダンスしているからなのだろう。

 曲の合間に小休止、何曲かを経て休憩に。
 疲れればすぐイルミネーションの下に移動して、用意されている飲み物をいただく。
 踊るのも勿論楽しいが、イルミネーションの下で休憩を取りながら過ごすのも、それはそれでまた、楽しい時間。
 色々な言葉を交わしながら過ごす時間は、ダンスとはまた違った楽しい時間だ。
(「こんな風に、幸せなひとときが過ごせて……」)
 良かった、と、フェンリルは1人そっと思う。
 相手が、自分に恋愛感情のようなものを持っていない、そのことは知っているけれど。
 でも……それでも、好き、なのだから……。

「……ねえ彼方。また、そろそろもう1度踊らない?」
「そうだな……体も休まったし、戻るか」
 頷き合うと立ち上がり、また会場へと戻る2人。
 また互いの手を取ると、ダンスパーティが終わりを迎えるその時まで、踊り続けるのだった……。




イラストレーター名:水名羽海