帯刀・翔護 & 月宮・ヒカル

●至福の時〜邪魔をするんじゃねぇ!〜

 クリスマスの日、翔護はヒカルを誘い、近所の遊園地を訪れていた。
「ボク、遊園地なんて初めてです……」
「今日は楽しみましょうね」
 パンフレットを手に、何から楽しもうかと考えながら、そう見上げるヒカルの姿に、翔護は思わず笑みをこぼすと、どこから行きたいか尋ねる。
「ええとですね……」
 ヒカルが選んだアトラクションを、順番に楽しむ2人。
 翔護が「こんな風に乗るんですよ」なんて教えてあげれば、ヒカルは実際に、アトラクションを体験しながら「本当ですね」とか「とっても楽しいです」なんて、とても嬉しそうに笑う。
(「ああ……ヒカル様……」)
 その挙動の1つ1つ、何もかもが、翔護のことを幸せな気持ちにさせる。
 ……でも。
 そんな2人の後ろには、怪しい人影が見え隠れ……?

「ぬわ!?」
 ジェットコースターに乗り込んだ翔護は、やがて悲鳴を上げた。
 ちょ、ちょっ、安全バーのロック掛かってない!?
「きゃああっ!」
 目をぎゅーっと閉じているヒカルは気付いていないようだ。
 彼女を心配させる訳にはいかない。だから、このまま根性でしがみつく!
「………」
「すごくドキドキしましたね。すごいです……帯刀さん?」
「え、ええ、そうですね……」
 下りて感想をこぼすヒカルに、色々な意味で頷く翔護。
 他にも、色々なアトラクションに向かう2人だが、何故か『身長169cmの人は乗れません』の張り紙があったり、何故か別の客に割り込まれて、一緒にアトラクションを楽しめないとか、色々……。
「……誰かが意図的にやってますね。……覚えていなさい」
 心当たりのある翔護は、ヒカルには気付かれぬよう、真っ黒な笑みを浮かべていた。

 ……そんな1日を過ごした2人は、最後に観覧車に乗り込んだ。
 上昇しながら眺める景色は、とても綺麗で。
「……ヒカル様。宜しければこれを、受け取ってください」
 翔護は邪魔の入りようの無いこの場所で、彼女へのプレゼントを取り出した。受け取ったヒカルは、その中身に、とっても素敵ですと笑う。それは、マリンブルーを使ったブレスレット……まるで手作りとは思えないほどの立派な品だ。
「実は、私も用意してあるんです」
 お辞儀と共に受け取ったヒカルは、そう告げて立ち上がると、帯刀に近付いて……。
 ……ふわり。
「帯刀さんは黒の服が多いですから、白のマフラーならきっと似合うと思ったのです……」
 それはヒカルの手編みのマフラーだ。迷惑でした? と少し心配げに見るヒカルに、翔護はぶんぶん首を振る。
 彼女からのプレゼント! 喜びにむせび泣く事はあっても、それを迷惑に思う事などあるはずがない。
「ありがとう、ございます……」
 プレゼントを交換して、互いにそれを身に着けた頃には、観覧車はゆっくり地上へと戻り……。
 2人は、遅くならないうちに帰路についた。楽しかった今日の思い出話に花を咲かせながら。




イラストレーター名:山葵醤油 葱