水堕・大和 & 三山・紅伎

●聖夜〜 a secret mind 〜

 クリスマスの夜。
 外は相変わらず賑やかなようだ。
 遠い場所からクリスマスの賑やかな曲と声が聞こえている。
 だが、この場所では。
 静寂のみが、支配していた。

 遠くで見ることしかできなかった自分。
 彼の大切な人と、側に居たこと。
 本当に愛し合っていたこと。
 そして、彼の大切な人を……失ったこと。
 何もできなかった。
 苦しむ彼に俺は何ができただろう?
 大切な人を失ったのは自分のせいだと、彼は苦しんでいた。
 でも、俺は何をすればいいのか、わからなかった。
 苦しむ彼を見つめるだけ。
 その彼を見つめて、自分も苦しんでいただけ。
 ただ、『幼馴染み』として、側にいただけ。

 でも、今日は。
 今日こそは……。

「静かだね……」
 窓の外を見ながら、大和は呟いた。
「あ、ああ……」
 大和と紅伎は、クリスマスパーティーに参加しようとは思っていた。
 だが、あまりの人込みに会場に入ることなく、自分達の所属している結社の中にいた。
 がたりと急に紅伎が立ち上がる。
「紅伎?」
 その様子に思わず大和は声を掛けた。
「や、大和っ!」
 どんと、大和を壁に押し付けて、紅伎は言う。
 ずっと言えなかった事。
 きっと今日なら。特別なこの日なら、きっと。
「好きだったんだ、お前の事っ」
 紅伎はもう一度、言った。
「ずっと……ずっと好きだったんだ……言えなかったけど」
 それは今も変わらない想い。
「俺……そんな事知らな……っ」
「言えるかよっ! ……あの人の事で辛いお前見てたら……」
「っ………」

 思い出されるのは、あの人との想い出。
 大切な想い出。
 なのに、どうしてだろう?
 その側に、彼がいる。
 紅伎が。

 大和は自分の体をそっと、紅伎に寄せた。
 紅伎も大和の肩を優しく抱きしめる。
 壊れ物を扱うように……。

 外では雪がゆっくりと舞い降りる。
 音もなく降る雪は、やがて溶けていくだろう。
 二人を祝福するかのように、差し込んできた月明かりはいつになく、明るく感じられた。




イラストレーター名:ふにゅ