●来年はいいことあるよ、多分。
「俺が何したっていうんだーっ!」
クリスマスイヴ。木枯らし寮の給湯室には、さめざめとむせび泣く葉の姿があった。
彼が涙に暮れているのには、理由がある。
それは海より深い悲しみに満ちた、1人の哀れな少年の物語……。
まぁ要するに、クリスマスパーティで一目惚れした女の子に告白したら、ちょうど相手は別の人に告白しようとしていた瞬間だったらしく、邪魔した事への怒り(ビンタ)と共に、派手にフラれてしまったのである。
「……うわぁぁぁぁんっ!」
あ、思い出したらまた涙が。
葉はじくじくと涙まみれで缶コーヒーをすすると、ヤケ食いだとばかりに並べた、大量のケーキの1つに手を伸ばす。
だばだばだば。あぐあぐあぐ。
(「あー、玉砕したんだな……」)
その姿を通りすがりに発見する大樹。ご愁傷様、と心の中で呟けば、何かが葉の元へ通じてしまったのか、しおしおと泣き濡れる彼の顔が大樹を向く。
「か、梶本ちゃん……」
「う……そんな泣きそうな顔でこっち見ないで。俺も一人身なんだから……」
そんな大樹の言葉なんて全然聞いちゃいねー様子で、葉は力なく「よよよよよ……」とすがりつく。
「俺、玉砕しちまったよ……」
うっうっうっ、と嗚咽と共に、葉はぽつりぽつり身の上に起こった出来事をこぼす。
「ま、そんなに泣くなよ。ほら、ケーキもいっぱいあるし。美味しいケーキ食べてたら、きっと元気出るよ」
そんな葉を慰めるように肩を叩く大樹。缶コーヒーだけじゃ寂しいだろうと、お茶を淹れる準備をする。
「梶本ちゃん……」
そんな彼の気遣いに、葉は今度は嬉し涙を滲ませる。
「そうそう、ヤケ食いしてもいいけど、おなか壊さないようにね」
一週間後には、おせち料理がまってるんだから……と告げる大樹に、葉はこくんと頷いて。
「おせち……正月……。ようし、来年こそ、高校デビューして俺は変わるんだあっ!」
「来年は、お互い素敵な出会いがあるといいね」
その言葉から連想した葉は、来年こそは! と拳と瞳に炎を宿す。そんな様子に大樹は苦笑しつつも、お茶を運ぶと、自身もケーキに手を伸ばすのだった。
クリスマスが過ぎれば、新しい年まで、もうあと僅か。
来年はお互いに、いい事が多い一年になりますように……。
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