●クリスマス、陽光の中にての静かな一時
12月の花が咲く緑の迷路。
その迷路の中に一際目立つ、黒の日傘が揺れている。
(「直前になってしまいましたが、恋人のメリルを無事にデートに誘うことが出来てよかったです」)
暁は、嬉しそうに隣にいるメリルを見た。
「ん? どうかしたか? 暁」
「あなたと一緒にここに来る事ができて、幸せだなと思いまして」
その暁の言葉にメリルはぽっと紅くなる。
「な、何言ってるんだ……と、とにかく、早くこの迷宮から出るぞっ」
暁の手を引いて、メリルはずんずんと先へ進む。
「はい」
嬉しそうな声で暁は答えた。
「ちょっと残念でしたね」
ふと、暁が呟く。
「何がだ?」
「メリルの好きな向日葵や百合が見れないのがです」
「まあ、今は12月だからな」
ふと、足を止める。
「でも、ここにある花はどれも綺麗だ」
「そこにあるピンク色のエリカとか、紫のプリムラ……水仙、ノースポールとかですね。ええ、本当に綺麗です」
にこっとメリルが笑った。
「歌ってもいいか?」
「ええ、どうぞ」
メリルの声が響く。有名な聖歌の一つを口ずさんでいる。
暁も知っているフレーズで共に口ずさむ。
迷路の中で、聖歌がゆっくりと流れていった。
数時間後、二人は無事、迷宮を出る事に成功した。
気が付けば、もう昼過ぎ。
「暁、あっちに日陰があるぞ」
メリルは程よい木陰を指差し、すぐさま向かう。
「あ、メリルっ」
急いでメリルの後を追う。
「よし、ここをわたし達の休憩所とするっ!」
「はい、そうしましょう」
差していた日傘を閉じて、二人は木陰に腰を下ろした。
「……り、力作だぜ。シンプルだが」
照れたようにメリルが差し出すのは、お手製のサンドイッチ。
言うとおり、差し出されたサンドイッチはどれもおいしそうである。
「ありがとう、メリル」
暁は、さっそく一つを手にして、食べてみる。
「これは美味しい」
「ほ、本当か!?」
「ええ、とっても」
「わ、わたしも嬉しいぞ」
メリルも嬉しそうにぱくんとひとつ、口にした。
お腹がいっぱいになった昼下がり。
またメリルの美しい歌声が響いた。
それはメリルと暁だけでなく、その場にいた恋人達の時間をも彩っていた。
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