●王様と猫 〜聖夜のきまぐれ〜
「あ、これなんていいかも!」
皓はそう店頭に並ぶ帽子の1つを取った。
今日はクリスマス。イルミネーションに彩られた街角の一角にあるこの店も、クリスマスカラーと、クリスマスソングに満たされている。
「ねえ、どう?」
「似合うじゃないか」
試着しながら振り替える皓に、久は頷き返す。
「可愛いねぇ。……帽子が」
「帽子かいっ!」
にこやかに告げる久の言葉に、すかさずツッコミを入れる皓。くすくす笑いながら「冗談だよ」と返した久は、皓が試着したその猫耳帽子を手に取って。
「ああ、似合ってるってのは本当。これ、皓も気に入ったんだろう? なら、僕が買ってあげるよ」
僕からのクリスマスプレゼントって事で……と、言うが早いかレジへ向かう久。
早速その帽子を被って、2人が店の外へ出れば、もう辺りはすっかり夜が更けて。
「あ! あっちがいい、あっちいこー!」
さて、次はどこへ行こうかと久が問いかければ、皓は迷わずに指差す。
「何かいいものでも見つけたのかな?」
「キレイなモノがあるよ」
そちらに視線を向けた久は、なるほどと頷く。
何故ならそこには、夜の街にきらめく、クリスマスツリーが見えたから。
「クリスマスだし……キレイなもの、あふれてるよね」
ツリーだけじゃない。街の街灯、賑やかしのイルミネーション、店頭の装飾……何もかもがキレイだと皓は思う。
2人は肩を並べ、そんな街角を眺めながらクリスマスツリーへ近付いていく。
「うわぁ……」
ツリーのすぐ真下まで来ると、皓は目を輝かせながら感動の声を上げた。
とっても大きくて。キラキラしていて。
皓にとってクリスマスツリーは、とても心躍る存在なのだ。
「キレイだなぁ。スゴイなぁ……!」
「なんだ、飾りが欲しいのかい?」
「……取れたら、持って帰ってもいい?」
そんな皓の様子に、一歩後ろで微笑しながら久が問いかければ、振り返って、じーっと見つめて来る視線。
「僕は止めないけど、白猫さんが冷たい目で見られるのは忍びないねぇ」
「ええ!?」
くすくすと久が笑えば、皓は少しだけショックを受けた顔をして、「世間って、無邪気にはしゃぐ子供の事を、微笑ましく見守ってくれないんだ!?」なんて目をうるうるさせている。
「はしゃぐには、皓は育ちすぎてるんだよ」
残念だけど……と久が付け加えれば、その言葉にもまた、皓は「がーん!」とショックそうな顔。
「私、時代に乗り遅れですかッ!」
「ザッツライッ! はっはっは、ご褒美にお茶して帰ろうね」
頷いて、久はそう笑いかける。
ころころと、坂を転がるかのように繰り広げられる皓との会話を、心底楽しいと感じながら。
皓もまた、同じように思っているかのように満面の笑みを浮かべて……2人は、じゃれ合うように言葉を交わしながら、クリスマスツリーの前を離れると、寄り道しながら帰路につくのだった。
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