四嬢寺・重 & 正岡・龍之介

●聖なる夜の思い出

 今日は特別な日、クリスマス。
 こんなにもどきどきするのは、大切なご主人様が側にいるから?
 それとも、ついさっき、ダンスホールで交わしたキスのせい?
 どちらにせよ、答えは一つ。

 なんてこんなにも、しあわせなんだろう、と。

 ふと、空を見上げると雪が降っていた。
 白く柔らかな雪。
 重は、そっとその雪を手に載せ、消えていく様を眺めていた。
 嬉しそうに微笑みながら。
「四嬢寺、何をみているんだ?」
「雪です。すぐに消えちゃいましたが……綺麗ですよ」
 にこっと微笑み、龍之介にそう答えた。
「綺麗といえば……向こうにあるイルミネーションも綺麗だぞ」
 龍之介は側にあるイルミネーションに顔を向けた。
「まあ」
 龍之介に寄り添い、重はイルミネーションを眺める。
 きらきらと輝くイルミネーションと、ゆっくり舞い落ちる雪が生み出す光のステージ。
「とても……綺麗ですね……」
「ああ……だが……」
 龍之介は重の顔を見て、何かを言いかけ、照れたように頬を染める。
「いや……それよりも、感謝しなくてはならないな」
「何がです?」
「似合っているよ、そのドレス」
 その言葉に重は嬉しそうに微笑んだ。
「ご主人様が選んでくださったものですから」
 と、ちょっと震えてくしゅんとくしゃみをする。
「でも、ちょっと寒くなってきましたね」
「そうだな」
 龍之介は着ていたコートをそっと重の肩にかけた。
「あ、そ、そんな……龍之介さんが風邪を召してしまいますっ」
「なら、こうすれば寒くないだろう?」
 龍之介はそういうと、そっと重の体を引き寄せ、強く抱きしめた。
 暖かい温もり。
「ご主人様……」
「寒くはないか」
「……はい」
 コート越しに感じる龍之介の温もりが、とても熱く感じられた。
 とたんに、涙が零れてくる。
「どうした? 痛かったか?」
 すぐさま離れようとする龍之介の手を握り、重は首を横に振った。
「ち、違うんです……その、嬉しくて……」
 涙を浮かべながらも、頬を染め、微笑む重に、龍之介はほっとした表情を浮かべた。龍之介は重の涙を不器用な手でそっと拭っていく。
「ご主人様」
「ん? どうかしたのか、四嬢寺」
 そっと唇に手を添えて、重は告げる。
「頂いた口紅……いっぱいお返しさせて……ください」
 その言葉に龍之介は頷いた。
「喜んで」

 煌びやかなイルミネーションの側で、恋人同士の二人はキスを交わす。
 淡いキス。けれど、それは一度や二度ではなく、何度でも。
 二人の時間を彩るように、空からはまた、ゆっくりと雪が舞い降りていた。




イラストレーター名:秋月えいる