萩村・春 & 真田・陸王

●綺麗に咲いた花々を、皆に楽しんでもらえますように

 朝早く、春と陸王は冬の花で彩られた『緑樹の迷路』を訪れていた。
 午後になれば、この場所にはクリスマスを楽しもうとする生徒達がやって来る。だから、その前に、花々の最終チェックをしよう……そう、2人は考えたのだった。
「うん、綺麗に咲いちょるな」
 春は屈み込むと、鉢の中で咲いている花を1つ1つ丁寧にチェックしながら、そう目を細めた。
 みんな綺麗に咲いていて、元気の無さそうな子はいない。春は土の乾き具合を確かめて、それぞれの花に適切な加減で水を与えていく。
「せっかくだから、これも一緒に植えないか?」
「あ、クリスマスローズじゃね」
 鉢を運んで来た陸王が掲げた花を見て、なるほどと春は頷く。
 クリスマスの名を冠した花は、今日のこの日に相応しいだろう。春は手頃なスペースに、受け取ったクリスマスローズを植え替えていく。
「あとは、あっちの方にも並べて……おっと、クリスマスツリーを忘れちゃいけないな」
 一方陸王は空きスペースを見定め、それらを取りに再び戻っていく。

「……よし。これで、花の方は大丈夫だね」
「みんな、楽しんでくれるとええな〜」
 やがて綺麗に整えられた花々を前に、陸王と春は頷き合う。
 あちこちに咲く冬の花たち。それはきっと、みんなのクリスマスを彩ってくれるだろう。
「……みんな、楽しんでくれるとええな〜」
「そうだね。さてと、これを片付けて来ようか」
 これから来る生徒達に思いを馳せながら、2人は空いた鉢や使った道具を抱えて戻る。

 彼らが片付けを終えて少しすると、やがてそこには、他の生徒達の姿が集まり始めた。
 春は合間合間にちょこちょこと、花の様子を確認に向かう。
(「……俺達は、裏方でいいんだ」)
 陸王はクリスマスを謳歌する生徒達の様子を見ながら思う。
 今日の主役は、恋人達とこの花々。
 微力ながらも彼らの力になれたのなら、それだけで……。
「陸王先輩」
 黄昏気味のその背中に、春の声が掛かる。いつの間にか、彼が迷路を1回りしてくる位の時間が過ぎていたらしい。途中、通りかかった休憩所で貰って来たというお茶の片方を差し出され、陸王はありがたく受け取る。
「……俺も来年は、花束を贈る相手が見つかるかな」
「先輩なら、きっとええ人が見つかりますよ〜」
 一口喉に流し込んで呟く陸王に、そう笑う春。
「……そう、だな」
 その返事に、苦笑しながら応じつつ、陸王は視線を迷路に戻す。
 そうして、咲き誇る花々と、それを愛でる恋人達を、見守り続けている2人の姿を、空から降り注ぐ柔らかな陽射しが、あたたかく包んでいた。




イラストレーター名:近江