ウォルディ・ウィルウォード & メルキュール・リネット

●A couple no Distance to hold It's Hans

 はっきり言って、挑発に乗るのは癪だった。
 だが、シカトするのも癪であった。
 だから……だから、今日は。

 クリスマスに行われるガーデンパーティー。
 そのパーティーにウォルディとメルキュールは参加していた。

『薔薇の下での話は二人だけの秘密』

 特別な日に加え、このキャッチフレーズは嬉しかった。
 いつもとは違う本音が聞けるかもしれないから。
 でも、それはなかなか聞けなくて。

 薔薇が風で揺れる。
「………」
 少し不機嫌そうにその薔薇を見つめるのは、メルキュール。
 先ほどから他愛の無い話ばかり聞かされて、次第に不機嫌になっていた。
「どうかしたのか?」
 ウォルディの言葉にメルキュールは。
「……べ、別に何も」
 かといって、期待しているなんて、見せられなくて。

 いつもそうだった。
 強がりばかりで何もしてこないウォルディ。
 けれど、今日だけは。
 秘め事を想いにできる今日だけは、自分を求めて欲しい。

 メルキュールの拳にぐっと力が入る。
 意を決して、振り返ろうとしたときだった。

「今なら障害は無い、か……」
「え?」
 ウォルディの呟きは、メルキュールの耳にしっかりとは届かない。
「目を瞑れ」
 だが、この凛とした声は確かに聞こえた。
「目を瞑れって……」
「二度も言わせるな……」
 メルキュールは静かに目を閉じる。とたんに、自分の鼓動がはっきりと聞こえてきた。
 頬が少し、熱く感じる。
 ふわりと、暖かいものに包まれた。
 いや違う。
 ウォルディが後ろから抱きしめたのだ。強くけれど優しく。
「あっ……」
 耳元でウォルディの吐息を感じ、思わず声を上げてしまうメルキュール。
「ゼロ距離だ。ほら。俺達の間に障害は無い。だろ?」
「ウォ、ウォルっ」
 メルキュールはすぐさま、振り返ろうとして。
「んっ」
 偶然、ウォルディの唇がぶつかった。
 偶然? いや違う。
 くすりと笑うウォルディが何だか憎らしくて、けれど、嬉しくて。
 気が付けば、メルキュールは壁を背に立たされていたが、どうでも良かった。
 持って来なかったプレゼントの代わりに。
「クリスマスプレゼント……あたしじゃダメかい?」
 潤む瞳でウォルディを見上げた。
「相手がメルじゃなきゃ来ない。分かってるだろう?」
 また唇が重ねられた。

 二人っきりの時間。
 僅かな時間であっても、こうして思いを確かめられた事、それは今後の二人の時間に変化が生まれる事だろう。そう……たとえば、これから始まる学園生活から……。




イラストレーター名:蜜来満貴