瀬良・雪鳴 & 篤川・朔羅

●今日だけは…

 雪鳴と朔羅は、2人でクリスマスツリーを眺めていた。
 イルミネーションがきらめくのを「うわぁ……」と見つめる朔羅。
 一方、雪鳴は、
「あー……さっむ……」
「ロマンないなぁ……」
 缶コーヒー片手にこぼす雪鳴に、朔羅は思わずそう言ってしまう。折角のクリスマス。綺麗なツリーを見ているのだから……そう思ってしまうのは、女の子として当然といえば当然。
(「……にしても今日のユキってば、ちょっと落ち着きないなぁ」)
 雪鳴の様子の違いに、朔羅は不思議そうに首を傾げる。
「……朔羅、ちょっと目を閉じてみてくれないか?」
「? なに」
 そんな中、掛けられた言葉に聞き返す朔羅だが、雪鳴は理由を言わない。
 首を捻る朔羅に「いいからとにかく」と強引に目を閉じさせると、雪鳴はそっと懐に手を忍ばせて。
 取り出した指輪を、静かにそっと朔羅の左手の薬指へと滑らせる。
「え……?」
 朔羅が思わず目を開いた時、雪鳴は既に彼女の手から離れていたけれど。
「あー……安もんだけどまぁ……プレゼント、だ」
 照れ臭そうにそっぽ向きながら、そう告げて照れ隠しにコーヒーを啜る。
「それって……こ、この指輪……!?」
 最初はぽかんとしていた朔羅だったが、彼がつけてくれた指輪に気付くと、満面の笑みを浮かべて飛びつく。
「嬉しい……!」
「ばっ……恥ずかしいから離れろってっ」
 雪鳴は冷静を装いながら言うが、その顔は恥ずかしそうに微かに赤い。口では言いつつも、無理に引き剥がしたりはしない雪鳴の様子に、朔羅は笑顔を浮かべて。
「やだ、離してあげないっ」
 更にぎゅっと雪鳴を抱きしめる。
「おま……」
「あ! 見てみて、雪だよ!」
 続けようとした言葉は、空を見上げる朔羅の事で遮られる。つられるように見上げれば、そこには、はらはらと舞う雪。
「……ユキ、大好きだよ……」
 小さく紡がれた言葉は微かなものであったが、それは雪鳴の耳に届いていて。彼は、その声にふっと息をつく。
 らしくないと、そう思わないでもない。
 だが、今のこれを楽しいと感じる自分がいる事も、確かなのだ。
 微かに笑みを浮かべて、雪鳴は思う。
 こういう時に伝えるべき言葉は、ただ、一つだけ。
「……メリークリスマス、だな」
「うん……メリー、クリスマス……」
 あとは、ただ静かに寄り添う2人を、ツリーの明かりと舞い散る粉雪……そして、2人の繋いだ手の間で光る、指輪が祝福しているかのようだった。




イラストレーター名:ヤミーゴ